人目のご訪問、ありがとうございます。 カウンター設置  2004.8.29

010105 『研究紀要』(科学的「読み」の授業研究会編)からの学び                      TOPへ戻る

はじめに

  科学的「読み」の授業研究会では、年に1回のペースで研究紀要を発行している。その原稿をめぐっての議論が研究紀要の中で進められているのではあるが、私のような現場教師にとっては難解な内容である。とはいえ、私自身読んでいて、疑問点が出てくるので、その疑問を私のホームページ上で公開して執筆者への回答をお願いしてみることにした。もしかすると私の小さな疑問の中には、みなさんの教材研究に役立つ内容もあるかもしれないし、こういった形で議論進めていったほうが研究の深まりが期待できるかもしれないと小さな期待をしている。
  このページをお読みになった方へのお願いなのですが、もし私と同じように、『研究紀要』の原稿についてどんな小さな疑問でも結構ですし、ご意見などありましたら、ご投稿いただけないでしょうか。このページを利用して紹介させていただきたいと思っています。
  また、井上の疑問に対するみなさんの回答やご意見などもお寄せいただければ、合わせてこのページに掲載させていただきます。


01010501   小学校低学年の説明的文章読解指導  ―「すみれとあり」(教育出版・小ニ・上)を例に― 
                         柳田良雄氏 への質問      ( 『研究紀要』X  より )


○『研究紀要』Xの柳田良雄氏の「小学校低学年の記録文の読み方指導」に対していくつかの疑問と、私なりの代案をまとめてみた。柳田氏は、小学校低学年において読み研方式の読み方指導はどうあるべきか、現場的発想で「説明的文章の読解指導の体系」を提案なさっている。全部で3節ある論文なのだが、私が取り上げるのは「すみれとあり」という教材を例に具体的な提案のある第3節。

○柳田氏の論文は、読み研のホームページ上で公開されていますので、全文を読みたい方は以下のページをお読みください。

原稿の載っているURL
http://www.adachi.ne.jp/users/hokuroka/page004.html

読み研のホームページ
http://www.adachi.ne.jp/users/hokuroka/index.html

では、第3節を引用紹介する。

3、「すみれとあり」を例に

 以上述べてきた系統を踏まえ、「すみれとあり」(教育出版・二年・上)の指導法を示す。

@教材文

   すみれとあり       やざま よしこ
                

1 春の みちばたに すみれの 花が さいて います。
2 よく 見ると コンクリートの われめや 高い 石がきの すきまにも さいています。
3 どうして こんな ところに、さいて いるのでしょう。
4 すみれは 花を さかせた あと みを つけます。みの中には たくさんの たねが できて います。
5 よく 晴れた 日、みは、三つに さけて ひらきます。
6 そして、たねが ピチッ ピチッと 音を たてて、いきおいよく とび出します。とび出した たねは、つぎつぎと 近くの 地面に おちます。
7 ありが やって きて、たねを 見つけました。
8 ありは、たねを じぶんの すの 中へ はこんで いきます。
9 しばらくすると、せっかく はこんだ たねを すの そとに すてて います。
どうやら、たねは たべなかった ようです。
10 すてられた たねを よく 見ると、もともと ついていた 白い かたまりが なくなって います。
ありは、たねに ついて いる 白い かたまりだけを 食べるのです。
11 ありの すは、 コンクリートの われめや、高い 石がきにも あります。
ですから、すみれは、そこで めを出し、花を さかせたのです。
12 すみれは なかまを ふやす ために、いろいろな ばしょに めを 出そうと します。
しかし、すみれは、たねを 近くの 地面にしか とばす ことが できません。
すみれが とばした たねは ありが いろいろな ばしょに はこんで いたのです。

A構造表

前文・・・1,2,3  3が柱の段落
本文@・・4,5,6
本文A・・7,8,9、10、11
 本文は記録文になっている。したがって柱の段落はない。
後文・・・12
 12には三文ある。最後の文が「柱の文」になる。

B指導計画(総時数 七時間)

●表層のよみ・・・三時間

・全文通読
・はじめの感想を書く
・新出漢字の指導
・書く作業(視写・短文づくり等)
・音読
・段落に番号をつける(十二段落)
・理解が難しいと思われる語句の指導

  以上の七点をすべて取り上げる必要はない。「悩み」の項で示したような、個人差が激しい等の実態の場合、「はじめの感想を書く」や「書く作業」などはやめて、音読や漢字指導に時間をかけてよい。
  ここでは、七点目の「理解が難しいと思われる語句の指導」について述べる。次のような語句を取り上げて、問うてみる。
「『すみれ』ってどんな花?」
「『みちばた』って道路のどの辺のこと?」
「『三つにさける』ってどういうようになること?」
「『ピチッピチッと音をたてていきおいよくとび出す』ってどのくらいとぶの」
「『石がき』ってどんなもの?」
「『コンクリートのわれめ』って何センチくらいなるの?」
等々。
 ここで大事なのは、図や写真を用いて、視覚的に理解させることである。例えば「みちばた」とはどの辺りをいうのか、板書させてみるとよい。実際の授業では「みちばたは下図のように、A,B,Cの三種類の解答が出て、四分の一の子どもがAないしCを選択している。
 また「コンクリートのわれめ」も描かせてみると、5センチを越える幅を描く子が数人出てくる。
「わかっているだろう」と思う語句を確認しながら進めることが、低学年の指導では大切である。

●構造よみ・・・一時間

・まず、前文や後文の定義を示す。その際、「前文は、こんなことを話しますよとか、どうしてでしょかと疑問を投げかけているようなところですよ」といった説明だけでは伝わらない。
   例文を用いて定義を示すことが大事である。
「『ドラエもんの人気の秘密』では、『ドラエもんはどうして子どもたちに人気があるのでしょう』という文までが前文だったでしょ。これと同じように考えると『すみれとあり』の前文はどこまでかな?」と問うとよい。すると子ども達は「『ドラエもんの人気の秘密』みたいにね・・・」と、例を基にして答えることができるからである。
 なおここでも、図示が重要である。文章が意味のまとまりによっていくつかの塊に分かれることを、目に見える形で示すのである。

・はじめに前文を決定する。二年生では部分的に討論を仕組む程度にする。3の文「〜いるでしょう」が問題提示の文であることを理由として言えれば十分である。それを、子どもと教師のやり取りの中で明らかにしていく。

・次に後文を決定する。11と12を後文とする意見も出ることが予想される。確かに問題提示の3に呼応しているのは11である。しかし、すみれとありの関係がまとめられてのは12である。全文の要旨ともいえる。これを討議によって導き出せればよいが、難しいようであれば、教師が示してよい。その際、12の前に一行分の空白があることにも言及する。

・本文については4〜6が「すみれのこと」、7〜11が「ありのこと」の二つに分かれていることを理解させる。

●論理よみ・・・二時間

・本文ではすみれの種のまかれ方とまかれた種が遠くに運ばれるわけが時間や事柄の順序に従って書かれていることを理解する。

 具体的には、段落ごとにばらばらになった文をどうつなげるかを考えさせる指導が有効である。4〜11の八つの文をそれぞれ短冊式に模造紙に書いて順序を変えて黒板にはり、正しい順序に並び変えさせるのである。

 子ども達は、構造よみで本文を「すみれのこと」と「ありのこと」に分類しているので、まずは大きく二つに分けるとよい、と言う。

 次に「そして」とか「しばらくすると」といった言葉や、書かれている内容を手がかりにしながら、時間的経過を追いながら、文を並び替えていく。

ここでも、下のように子どもの発言に沿いながら黒板に図示していくと、読解が苦手な子ども達も理解しやすくなる。

・本文には、すみれの種の散布の様子を説明する言葉がたくさんある。それらの言葉同士の関連を正しく理解させる。

 具体的には5,6,7の内容を絵に描かせるという指導が考えられる。「ピチッ ピチッと 音を たてて、いきおいよく」飛び出る種。それが「つぎつぎと 近くの 地面に おち」るのである。

 絵を描かせた後、その絵がどの言葉を根拠にして描かれたのかを発表させ、話し合いを仕組む。そうすることで、それぞれの子が、一つ一つの言葉を関連づけて、どのようなイメージを抱いていているのかが理解できる。

●吟味よみ・・・一時間

・終わりの感想を書き、発表しあう(思ったこと、わかったこと、もっと知りたいこと、疑問など)。もっと知りたいことなどがあれば、図書館で調べたり大人に聞いたりといった調査方法を示してあげる。
・関連した内容の本を紹介する。(低学年向けの科学読み物など)
                                                                                      (『研究紀要』X  P80〜83)

【疑問1】構造読みの順序を(1)前文の決定(2)後文の決定としているが、難しくないか。(後文の決定はむずかしい)

〈その理由〉柳田先生も「・次に後文を決定する。11と12を後文とする意見も出ることが予想される。確かに問題提示の3に呼応しているのは11である。しかし、すみれとありの関係がまとめられてのは12である。全文の要旨ともいえる。これを討議によって導き出せればよいが、難しいようであれば、教師が示してよい。その際、12の前に一行分の空白があることにも言及する。」とお書きになっているように、11段落と12段落とが問題提示に対する端的な答えを述べているのであるから、二つを後文とするのか、12段落だけを後文とするのか判断がやはり難しい。

〈代案〉問いと答えの二部構造で把握する。そして、問いの部分から簡潔に問題を述べている段落、答えの部分の中からさらに簡潔に答えを述べている段落を把握する。

まず、問い・答え構造は、説明的文章によく使われる論展開であるし、大きな文章構造を把握する上で重要な視点である。

この記録文の場合、1〜3段落が〈問い〉、4〜12段落が〈答え〉にあたる。

そして、1〜3段落の〈問い〉の部分の中で、簡潔に問題を述べているのは3段落。4〜12段落の〈答え〉の部分の中で、簡潔に答えを述べているのは、12段落(11段落もそうだという意見がでたら、そういう見方もできるとして処理すればよい)。

〔補足〕
  後文を12段落として押さえる理由を、柳田氏は「しかし、すみれとありの関係がまとめられてのは12である。全文の要旨ともいえる。」と教材分析しているが、もっとはっきりした理由を提示するには、12段落と本文との包括関係をとらえさせればよい。
「12 @すみれは なかまを ふやす ために、いろいろな ばしょに めを 出そうと します。Aしかし、すみれは、たねを 近くの 地面にしか とばす ことが できません。Bすみれが とばした たねは ありが いろいろな ばしょに はこんで いたのです。」
12段落A文に対応するのが、本文Tの456段落。12段落B文に対応するのが、本文Uの7891011段落。
  ただし、この読みを、構造よみ段階で引き出すことは小学校低学年段階では無理だと思う。私が小学校低学年段階で「構造よみ」をどう位置付けるかと試案を述べると、2段階の「構造よみ」でいいのではないかと思う。第1段階は、読みの最初の段階で、〈前文〉と〈本文・後文〉の二部構造を読み取る。第2段階は、読みの最後の段階でまとめとして〈後文の確定〉を行う。この記録文でいうと、〈前文〉の問題提示に答えるために、(1)すみれは、たねを近くの地面にしか飛ばせない。(2)たねの白いかたまりを食べるために、ありがたねを巣に運び、いらなくなったたねを巣の外に捨てる。(3)ありの巣は、コンクリートのわれめや、高い石がきにもある。という三つの事実から、「すみれがとばしたたねはありがいろいろなばしょにはこんでいたのです。」と結論付けていることを、整理しながら〈後文の確定〉をすることになる。つまり、小学校低学年の「構造よみ」の第2段階は、どのような根拠で、どのような結論を導き出しているのか整理できればよいのではないかと思う。

【疑問2】論理よみ・吟味よみとあるが、「事実よみ」の方が最重要課題ではないのか。論理よみと称して「段落の並び替えをすれば、時間の順序で書かれていることが理解できたことになるのか。」

〈その理由(1)〉
「事実よみ」を促す疑問を考えることが、読みの授業の中心課題ではないか。

この記録文を読んでいて疑問点がいくつか出てくる。そういう疑問点を考えることが授業の中心課題になるのではないか、と私は思う。一応そういう疑問点を考えることが「事実よみ」であると私は理解しているのであるが、違っていたらご批判をいだければと思う。

さて、どんな疑問点が、この記録文からでてくるか、思いつくまま書くが、みなさんからも他にお気づきの疑問点があればお寄せいただきたい。

(1)「高い石がきのすきま」にすみれが咲いているのに対して、なぜそんなところに咲いているのかという疑問は、納得できるのだが、「コンクリートのわれめ」にすみれが咲いているのが、なぜ疑問になるのか。

(2)「1 春の みちばたに すみれの 花が さいて います。2 よく 見ると コンクリートの われめや 高い 石がきの すきまにも さいています。」とあるが、「春のみちばた」は「舗装されていない土のみちばた」のようなのだが、「コンクリートのわれめ」は「春のみちばたに対してどんな位置関係にあるのか」。「春のみちばた」は「コンクリート舗装された道なのか」。「高い石がき」は、「春のみちばた」の両脇に積んである「石がき」で、高さとしては「大人の背の高さ以上」あるイメージでいいか。(1)の疑問と関係する疑問である。

(3)「6 そして、たねが ピチッ ピチッと 音を たてて、いきおいよく とび出します。」とあるが、どういうしくみで「たねがとび出すのか」

(4)「10 すてられた たねを よく 見ると、もともと ついていた 白い かたまりが なくなって います。ありは、たねに ついて いる 白い かたまりだけを 食べるのです。」とあるが、「なぜたねを巣の中にはこんで白いかたまりをたべるのか」「たねをみつけたときに、ありは白いかたまりだけを切りとってはこばないのか」「巣の中で、白いかたまりはありたちが食べてたねだけ巣の外にだしたのか、それとも、保存食として白いかたまりは巣の中にたくわえてあるのか」「白いかたまりとは、どんな成分の物質なのか」

(5)「5 よく 晴れた 日、みは、三つに さけて ひらきます。」とあるが「なぜよく晴れた日なのか」「曇りの日や雨の日は絶対にひらかないのか」

(6)「11 ありの すは、 コンクリートの われめや、高い 石がきにも あります。ですから、すみれは、そこで めを出し、花を さかせたのです。」とあるが、「7〜10段落のありがたねを運んだ巣は、コンクリートのわれめの巣だったのか、高い石がきの巣だったのか、それとも違うところの巣なのか」。

ここの論展開としては、
(A)「ありがすにすみれの種を運び、いらなくなったたねを巣の外に捨てる」+「その巣は、コンクリートのわれめの巣であった」あるいは「その巣は、高い石がきの巣であった」ならば、それだけで証明完了。
(B)「ありがすにすみれの種を運び、いらなくなったたねを巣の外に捨てる」+「その巣は、地面の巣であった」ならば、さらに次の間接証明事実が必要。
「コンクリートのわれめにありの巣があった」「高い石がきにもありの巣があった」〈間接証明事実〉とすると、「そこのありが、たねを運んだのだろう」と結論付けることができる。
教材の書かれ方は、(B)の論展開なのだと思うのだが、もしそうなら「11 ありの すは、 コンクリートの われめや、高い 石がきにも ありました。ですから、すみれは、そこで めを出し、花を さかせたのでしょう。」という書き方の方がよいと思うのだが、いかがなものだろうか。

〈その理由(2)〉
論理よみの指導法「・本文ではすみれの種のまかれ方とまかれた種が遠くに運ばれるわけが時間や事柄の順序に従って書かれていることを理解する。具体的には、段落ごとにばらばらになった文をどうつなげるかを考えさせる指導が有効である。4〜11の八つの文をそれぞれ短冊式に模造紙に書いて順序を変えて黒板にはり、正しい順序に並び変えさせるのである。」は、有効か。

4 @すみれは 花を さかせた あと みを つけます。Aみの中には たくさんの たねが できて います。
5 よく 晴れた 日、みは、三つに さけて ひらきます。
6 @そして、たねが ピチッ ピチッと 音を たてて、いきおいよく とび出します。Aとび出した たねは、つぎつぎと 近くの 地面に おちます。

柳田氏の指導法で、例えば4段落〜6段落の順序を入れ替えたものを、正しい順序に並び替える学習は、具体的な操作学習だとは思うが、それでいいのだろうかという感覚的な疑問が残る。

上の4段落〜6段落の時間の移りは、〈時を表す言葉〉に着目する必要がある。

4段落では、〈花をさかせたあと〉、5段落では、〈よく晴れた日〉。6段落には〈時を表す言葉〉はないが、5段落の「みが三つにさけてひらいた」直後のことであることは読み取れるであろう。そういう時間的な順序であることを、問答によってとらえることこそが大事なことなのではないかと思う。

【疑問3】これらの疑問については、吟味よみの段階で「もっと知りたいこと」として調べさせる活動を仕組むようなのだが、なぜ吟味よみの段階でなければならないのか。読みの活動のなかで、出てくる疑問ではないか。
〔補足〕私自身「事実よみ」を促す「疑問」の中で、(A)教材文の中で解決できる疑問  (B)推測可能の疑問  (C)新たに調べないとわからない疑問の三つに整理する必要があると思う。国語の授業の中では、(A)(B)の疑問を扱い、(C)は柳田氏の「吟味よみ」の発展課題となるように思う。

[2004.08.29 公開]


2010年度版の教材文

すみれとあり   やざま よしこ

☆ある日 ある時 に 筆者が 見た事実を述べた文  を紫色。

☆すみれの特徴を 一般化して 述べた文 を 黄緑色。

思考ユニットによる教材分析 文の種類 思考ユニット モダリティ テンポラリティ パーソナリティ
 1 はるの 道ばたに、すみれの 花が さいて います。

     + (くずれた 並び)

 2 よく 見ると、 コンクリートの われめや、高い 石がきの すきまにも さいて います。
 
    [こんな 場所 への くりこみ展開]

 3 どうして、 こんな 場所に、 さいて いるのでしょう。
     [Q 問い]
テイル描叙文



テイル描叙文



テイル
のべたて 現在 うつし 物称



のべたて 現在 うつし 物称



たずね  現在      物称
     [Q 問い]

   (1行空き)

     [A 答え]
 4 すみれは、 花を さかせた あと、みを つけます。

    [み への くりこみ展開] あるいは [み の 補足説明]

みの 中には、 たくさんの たねが できて います。

    [み への くりこみ展開] 

 5 よく 晴れた 日に、 みは、 三つに さけて ひらきます。

    [み への くりこみ展開] 

 6 そして、 みの 中から、 たねが いきおいよく とび出します。 

    [たね を 主語とする 継起展開]

とび出した たねは、 つぎつぎと 近くの 地面に おちて いきます。

 7 ありが、 地面に おちて いる すみれの たねを 見つけました。 

たねには、 白い かたまりが ついて います。

    [あり を主語とする 継起展開]

 8 ありは、 たねを じぶんの すの 中へ はこんで いきます。

    [あり を主語とする 継起展開]

 9 しばらくすると、 せっかく はこんだ たねを すの 外に すてて います。 

すてられた たねを よく 見ると、 もともと ついて いた 白い かたまりだけが、 なくなって います。 

どうやら、 たねは 食べないようです。
 
10  すみれは、 なかまを ふやす ために、 いろいろな 場所に めを 出そうと します。 

しかし、 じぶんでは、 たねを 近くの 地面にしか、 とばす ことが できません。 

そこで、 すみれは、 ありの すきな 白い かたまりを たねに つけて、 いろいろな 場所に はこんで もらうのです。

 (1行空き)

11 ありの すは、 地面の 上だけで なく、 コンクリートの われめや、 高い 石がきにも あります。 

その ため、 ありが はこんだ すみれの たねは、 そのような 場所でも めを 出し、 花を さかせて いるのです。
4 ナル判断文



テイル判断文



5 ナル判断文



6 ナル判断文



ナル判断文

7 スル描叙文

テイル描叙文



8 スル描叙文



9 テイル描叙文

テイル描叙文

ドウ判断文

10 スル判断文

ドウ判断文

ドウ判断文



11 アル描叙文

テイル判断文
のべたて  超時 うつし 物称



のべたて  超時 うつし 物称



のべたて  超時 うつし 物称



のべたて  超時 うつし 物称



のべたて  超時 うつし 物称

のべたて  過去 うつし 物称

のべたて  現在 うつし 物称



のべたて  現在 うつし 物称



のべたて  現在 うつし 物称

のべたて  現在 うつし 物称

のべたて  現在 つくり 物称

のべたて  超時 うつし 物称

のべたて  超時 うつし 物称

のべたて  超時 つくり 物称



のべたて  現在 うつし 物称

のべたて  現在 うつし 物称

すみれとあり という 教材文 の わかりにくさ について

山梨大学附属小学校2012.06.30(土)の公開で、小学校二年生がこの「すみれとあり」の教材を学習しているのを参観しました。そのときに、私がこの教材のわかりにくさについて、附属小学校の先生に、下の文章をお送りしました。その文章を以下紹介します。

この文章は、実に、読みにくい文章だと私は思います。

というのは、具体的な「すみれ」と、一般的な「すみれ」の記述とが混在しています。

1 はるの 道ばたに、すみれの 花が さいて います。
2 よく 見ると、 コンクリートの われめや、高い 石がきの すきまにも さいて います。
…[1][2]段落は、現在見ていることを述べている。テンポラリティは現在。つまり、ある日ある時筆者が見た具体的な「すみれ」を記述している。
3 どうして、 こんな 場所に、 さいて いるのでしょう。

4 すみれは、 花を さかせた あと、みを つけます。
みの 中には、 たくさんの たねが できて います。
5 よく 晴れた 日に、 みは、 三つに さけて ひらきます。
6 そして、 みの 中から、 たねが いきおいよく とび出します。
とび出した たねは、 つぎつぎと 近くの 地面に おちて いきます。
…[4]〜[6]段落は、すみれの習性というか特徴を一般的に述べている。テンポラリティは超時。ある特定のすみれを観察して記述しているのではなく、一般的なすみれのことを述べている。

このような書き方に続けて、どういうわけか、具体的な「あり」が登場してきます。違和感があります。

言語学の常識として、ある時ある場所で見たすみれを記述する文と、一般的にすみれというものはという視点で述べる文とが、あることを学んでいないと、その違いに気づくことすら難しいと思います。

ビーカーに水を入れて、下からガスバーナーで熱していったら、百度で沸騰した。(ある時ある場所で観察したビーカーの水の変化の記述)
水は、地上では、百度で沸騰する。(水は、いつでも地上では百度で沸騰するという、いつでも起こることの記述)

たぶん、4〜6までの「すみれ」の記述について、子供たちも含めて、1・2段落の具体的な「すみれ」が続けて出てきたととらえている方が、多いと思います。ですが、書かれ方としては、違う「すみれ」です。

ところが、原作の「すみれとあり」を読むと、こう書いてあります。

P9  いくにちかすぎると、みちばたのすみれにたくさんはながさいた。
    むしたちが はなを みつけて とんできた。
P10 はちが すみれの はなに とまったよ。
    あたまを はなのなかに つっこんで、 ながい くちを はなの おくに のばしている。

と続き、時間の経過とともに、最初に観察した「すみれ」がどのように変化していくか、記述していきます。

小学校二年生に、時間の順序を教えるにしても、ある時ある場所の特定の「すみれ」の記述で教えるのと、一般的な「すみれ」の記述で教えるには、違いが微妙にでてきます。

学校の文法では、現在形と過去形の違いについて、教える内容を持ち合わせていません。

時間の順序を教えるには、少なくとも、現在形(非過去形)と過去形の違いをどのように日本語の仕組みとして表現しているのか知らないとどうにもなりません。

動詞の現在形の用法    『新版 日本語学の常識』 鈴木康之 P60・61

  次に、動作や変化を意味する動詞の場合を考えてみる。動作や変化を意味する動詞の場合、現在形は、そのままでは、現在のことを言い表さない。つまり、動作や変化を意味する動詞の現在形には、「@現在の事がらを示す」という働きがなく、ABの用法だけである。(ちなみに、「いま食べる。」といっても、本当の意味での現在のことではない。ごく近い未来のことで、「すぐに」の意味である。)

A未来の事がらを示す。
 いま ごはんを 食べる(食べます)。    あした 手がみを 書く(書きます)。
 来年には 貯金も ふえる(ふえます)。  まもなく 風船が 割れる(割れます)。
B習慣的なこと、恒久的なことを示す。
 父は いつも あさ パンを 食べる(食べます)。  姉は 週に 一回 手紙を 書く(書きます)。
 キリギリスは 毎年 いまごろ 死ぬ(死にます)。
 春になると ダムの 水が ふえる(ふえます)。

 動作や変化を意味する動詞で、現在のことをさし示すためには、「〜している」の言い方を使う。この言い方は、アスペクトの一つ(継続相)であって、テンスにおける性格のうえでは、一種の状態を意味する動詞と言える。状態を意味しているので、「いる」「ある」や「大きすぎる」「長すぎる」などの動詞と同じように、その現在形には、@ABの用法があって、結果として、現在の事がらを示すことができるのである。

@現在の事がらを示す。
 弟は いま ごはんを 食べている(食べています)。
 父は へやで 手がみを 書いている(書いています)。
 キリギリスが 庭で 死んでいる(死んでいます)。
A未来の事がらを示す。
 あと 30分ぐらいは 走っている(走っています)。
 あしたも 6時ごろには ごはんを 食べている(食べています)。
B習慣的なこと、恒久的なことを示す。
 ぼくは まいにち パンを 食べている(食べています)。
 地球は まわっている(まわっています)。


また、「すみれとあり」の問題提示部分にも、不正確な記述が見られます。

「[よく見ると]、すみれは、コンクリートのわれめや、高い 石がきの すきまにも さいて います。」の[よく見ると]です。
何をよく見るのか、全くわかりません。
「はるの道ばた」でしょうか。「さいている すみれの花」なのでしょうか。
私は、「あたりを見まわしてみると」くらいの内容だと思います。そうすることによって、離れたところに「コンクリートのわれめや、高い 石がきのすきま」があるという位置関係がはっきりします。

原作では
P5 すこしあるいていくと………
   あれっ、コンクリートの われめに さいている すみれを みつけたよ。
   どうして こんな ところに さくのかな。
P6 いしがきの すきまに さいている すみれを みつけたよ。
   どうして こんな たかい ところにも さくのかな。
と、三つのすみれの咲いている場所が離れていることが、よくわかります。

[2012.07.09 公開]