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0205 思考ユニットメーリングリスト                               TOPへ戻る

020502  メーリングリストでの情報交換  その1

はじめに
  この講演記録は、第31回日本語文型教育研究会での湯澤先生の「文塊のとらえ方(オリエンテーション)」講演を、西原秀明先生が文字起こしなさったデータをもとに、井上がホームページ用に編集したものです。ここに公開することをお許しいただいた湯澤先生と西原先生に感謝いたします。


平成15年8月10日第31回日本語文型教育研究会  講演記録  湯澤正範先生

  時枝先生は「今後の文法学は、文章論の方に進まなければならない」ということを述べられていたわけです。学生時代の頃に読んだ記憶があるのですが、その後、文章論がどのように発展したかを大雑把に述べます。例えば、御茶ノ水女子大の市川孝先生とか学芸大の永野賢先生方の「文章論」というものが世に出ました。お二人の先生の論の特徴は、一文一文の間の関係を定義して、特に接続詞の定型を整理し「文章論」を展開されたのですが、実用では、なかなかうまく行かないことがあったわけです。
  林四郎先生がいち早く「文章論」に取り組まれて、我々「日本文型教育研究会」でも研究してきたわけです。今までの論と林先生の論が違う点は、文の塊と塊の関係がどうなっているかという見方をするという点です。
  林先生は、この文の塊を「文塊」と言われたわけで、私たちもその考え方を使わせていただいています。「文塊」という考え方は、実際の文章展開の構造に忠実であり、実用的であります。構造を捉えるということは、文塊と文塊の関係がどういう風に展開しているかということをみていくことです。そこまでは、文型教育研究会としても。捉え方は一致して到達したところです。
  だが、どのように文塊を作るかという細かい部分、それから文塊と文塊の関係はどういう関係であるかというところになると、きちんと形が定まっているというところまではいっていないのが現状です。
  つまり、林先生は林先生の論理で考えられ、私も私の論理で考えるというように、確定はしていないのです。しかし、「文塊」を捉えて、文章構造を見ていくということは、文型研の独自の方法論であり、教材分析として実用的で、実際に役立つものであると思っています。
  だから、皆さんも、教材分析を単語や一文の関係からの角度でなく、「文塊」を捉えて、その関係をどう考えるかという角度で、分析してみてほしいと思います。その法則性が確定していない部分もあるので、いろいろな分析が出るとは思いますが、そのことを今後、皆さんが研究を推し進めていくことが必要なのではないかという気がしております。
  しかし、私の思考ユニットによる教材分析は、どのように実用的で、授業に生かせるのかということを説明する必要があると思いますので、ごく簡単な小学校3年生の教材で解説します。「とことこ すたすた たたた」という作品です。

ゆうくん ごはん  
さっちゃん ごはんです 
おうい かずくん ごはんですよ

はい とことことこ  
はあい すたすたすたすた 
はあい たたたたたたたたたたた 

いただきまあす

  このような短い詩を、小学校3年で、一体どのように授業したらよいか、そのために、文章としてどう読むのか、ということについて説明します。
  私が、この作品の文塊をどのように捉えたのかという例を示します。以下のようになります。

ゆうくん  ごはん
 
さっちゃん  ごはんですよ
おうい  かずくん  ごはんですよ
スル描叙文仮
スル描叙文仮
スル描叙文仮
   
はい  とことことこ
はあい  すたすたすたすた
はあい  たたたたたたたたたたた
いただきまあす
スル描叙文仮
スル描叙文仮
スル描叙文仮
スル描叙文仮

  1−3文が一連になっているので、一つの塊になるのでしょうけれども、その内容を見ていくと、やっぱり、「ゆうくん ごはん」「さっちゃん ごはんです」「おうい かずくん ごはんですよ」という文に、大きく塊が見えてきます。だから、その塊を四角く囲ってみたのです。そうすると、これはお母さんが子どもたちに呼びかけた言葉であるということがわかります。
  すると、「はい とことことこ」「はあい すたすたすたすた」「はあい たたたたたたたたたたた」となります。それから「いただきまあす」です。この関係は、お母さんの呼びかけに対する子どもたちの反応でしょうから、これも大きな塊になります。たったそれだけであります。
 ただ、子どもたちの反応の塊を見ますと、「はい とことことこ」「はあい すたすたすたすた」「はあい たたたたたたたたたたた」の三文がまた一つの塊になっていて、「いただきまあす」というのが全く同じ文塊でないことがわかります。内容的にちょっと違うだろうと思います。返事をして、駆け寄ってきて、みんなが集まって、それから「いただきまあす」と言ってご飯を食べ出したって感じですので、文塊の内部にもう一つの文塊ができています。
 さて、「ゆうくん ごはん」「さっちゃん ごはんです」「おうい かずくん ごはんですよ」の三文の関係を、どう捉えるかということです。
  私は、これを時間的展開である「継起展開」と捉え、「」の矢印で示しました。この関係についての考え方は、継起展開ではなくて、いろいろな捉えがあってもいいと思います。その点については、皆さん自由に考えてみてください。
 ただ、このような分析が、授業にどう役立つかということを考えていく必要があります。ごく簡単に説明します。
  このように文章構造を捉えていくと、大きく二つの関係が見えてきます。つまり、この文章は、「お母さんの呼びかけの言葉」が刺激になっていて、子どもたちが反応しているという「刺激」と「反応」の関係、「スルト展開」になっていることがわかります。「スルト展開」の関係から、この作品の奥に何が読めるかということを授業のねらいにします。小学校3年生にやってみると面白いと思います。
  一つの答えはないから、子どもの直観でいろんなことを言わせることが大切です。
  例えば、お母さんの呼びかけに対して、子どもたちが「はい」「はあい」「はあい」でもって三人とんできて「いただきまあす」となっています。いろんな家庭があるわけで、呼んでも来ないような家庭だってあるわけです。ですから「明るい家だなあ」とようなこという子どもの感想は、まことに自然であると思います。
  それから、「子どもたちはみんな元気で食欲があって、すぐ『はあい』って来るなあ」とか「呼んでもすぐに集まってこない家だってある」というようなことを読み取る子がいてもいいでしょう。
  また、子どもの走り方が違うところから、子どもたちが全く同じでなくて、個性があるというようなことを読み取る子どもがいてもおかしくありません。
  おかあさんの呼びかけは、三つがあります。そして、三人が並んでいるわけです。このところから何か読み取る子がいてもおかしくないわけです。
  さらに、「みんなごはんだよ」と一度で呼びかけるのではなくて、一人一人の名前を呼びかけているから、「おかあさんは優しい」というような読み取りをしてもいいと思います。
  「ゆうくん ごはん」「さっちゃん ごはんです」「おうい かずくん ごはんですよ」というところから、「ゆうくん、さっちゃん、かずくんとのいる場所がみんな違っている。」とか、「近い場所から先に呼びかけて、だんだん遠くの子どもがばらばらに集まってきているみたいなので、一緒にいるんじゃないな」ということを読み取ったとしても自然でしょう。関連して、走る足音も、近くにいるのは「とことこ」、中間にいるのは「すたすたすた」だし、一番遠くにいるのは「たたたた」になるということに気づくがいるかもしれません。
  子どもたちはみんなそれぞれの場所にいて集まってくるのだけれども、最後はいっせいに「いただきまあす」と食事に入ったなというところのイメージから何か読み取ることもできます。
  文塊の関係を読ませて、直観に捉えたことをいろいろ言わせるで、こんな短い作品でも楽しい授業が展開するし、国語力につながる発言になると思います。
  このような授業展開が出てくるのも、こういう分析があるからであって、分析がなかったら、授業のねらいも出てこないだろうという気がいたします。
  皆さんも、まずは、できるだけ全体から文と文の関係で塊になっているということを、まことに常識的に、普通の感覚で考えてみることです。そして、自分の捉えた文章構造が自然であるかということを考えていくことが分析する上で大切であると思います。