人目のご訪問、ありがとうございます。     カウンタ設置   2004.9.26

07010102     阿部昇著『授業づくりのための「説明的文章教材」の徹底批判』を徹底批判する
                                ( にいがた国語の会&にいがた高校国語サークル 著   1998年8月  より )
   
 はじめに                                                                                                        TOPへ戻る

  以下の原稿は、「にいがた国語の会&にいがた高校国語サークル」が編集した「阿部昇著『授業づくりのための「説明的文章教材」の徹底批判』を徹底批判する」サークル誌に掲載されているものです。このサークル誌には、説明的文章の読みの授業を考える上で重要な問題提起が、阿部昇氏の著書に対してなされていると、私はとらえています。ただ、サークル誌ということで、多くの方の目にふれることなく埋もれてしまうのは、とても残念です。そこで、私のホームページ上で原稿を紹介させていただいています。

    なお、柱の文を考えるときに、教材文があった方が読みやすいだろうと考えて、井上が補っておきました。(☆)印の部分です。


文相互の関係を説明する新しい分類は妥当か?
     ――「人類はほろびるか」(日高  敏隆)を再検討する ――  神田  富士男
 (P76〜80)

一、はじめに

 『「説明的文章教材の」徹底批判』において、阿部氏は、段落相互・文相互の論理関係について、細かい分類を提唱している。それらの分類が、確かに当てはまり、有効な説明がされるときもあるが、従来までの分類を変えるだけの価値があるかということになると、疑問を感じぎるをえなかった。例えば、「くわしく説明」と「例」が同じ分類でよいのか、「くわしく説明」と「補足」を分類することが効果的なのか、「まとめられ」は必要なのか、といったことである。
 そこで、ここでは、第三章を通して、段落相互・文相互の関係について、再検討を試みた。分類については、これまで用いられてきた大西氏の分類を用いて比較した。

大西氏の分類(四四頁参照)

@ 柱=くわしい説明
A 柱=例
B 柱−理由(前提→結論) (原因→結果)

阿部氏の分類(抜粋・五〇頁参照)

推論的要素を含まない「→」
(1)くわしく説明・例
(2)補足
(3)まとめられ
推論的要素を含む「⇒」
(4)理由・原因
(5)前提

二、「人類はほろびるか」の論理よみに対する検討

 「人類はほろぴるか」の全体の構造については、阿部氏が指摘するように、典型的であり、異論はない。しかし、「論理よみ」のところでは、再考する必要があるので、ここでは、再考したものと、阿部氏の考えを比較する。
  まず、一七二貢〜一七三貢で説明されている「本文T」の段落構成についてである。阿部氏は、本文Tの柱の段落を[3]としているが、私たちのサークルでは、[2]と考える。なぜなら、「本文T」で重要なことは、「ほろびる」ことの意味であり、それが問いかけられているのが[2]だからである。阿部氏は、「問い」に対する「答え(内容)」を重視して、[3]を柱の段落としている。確かに、「答え」は要約文を書く時には重要である。しかし、これまでの実践では、文章が複雑で、内容が把握しにくく、「答え」が明確にならず、生徒が理解しにくいことがよくあった。そんな時、苦しい説明をするよりは、「問い」を柱として説明してやる方が、生徒にとっては、柱がすっきりとするはずである。また、「問い」を柱とした方が、要約文を書く時にも、求める内容の方向性がはっきりとし、書きやすいはずである。「問い」が柱か、「答え」が柱か、についての詳しい論議は、内容が重複するので、本小冊子の他稿に譲ることとする。
 本文Tでは、[2]を柱の段落とするが、要約のためには[2]をくわしく説明している[3]の文相互の関係を考える必要があるので、[3]の文相互の関係を見ることにする。

サークル    
F
E
D C B A
@









 
第3段落の教材文  (☆)

@ある種類の生物がほろびるとか絶滅するとかいうのはその種類に属する個体が一つ残らず消えうせることである。
A有名なのはキョウリュウである。
Bあの巨体で、地上をわがもの顔にのし歩いていたと思われる動物がどうして絶滅したかは、興味のつきない問題である。
Cキョウリュウは、ある日とつ然にほろび去ったのではないし、十年や二十年のうちにすべてが死に絶えたわけでもない。
Dおそらくは、数百年、数千年、いや、それ以上の年月の間にしだいに数が減り、ついに消えうせたのであろう。
E生物の絶滅というのは、ふつう、このように起きる。
F繁栄の絶頂にあるうちに、滅亡の危機がじわりじわりと、何世代にもわたってしのび寄ってくるものなのだろう。
阿部氏
                             
 
まとめられ
F
E D C  B     A    
@


|↑ |↑  |


┘└ ┘└  ┘












 

 阿部氏の構成では、第A文〜第E文まで「まとめられ」の連続で説明されている。ここは、第A文から第D文が、結局は第E文の説明になっているのだから、第A文〜第D文を特別に分ける必要はない。阿部氏が提示するような、一文一文のくわしい分類は、ここでは不要ではないだろうか。ひとまとまりになっているものを、まとめずにわざわざ分けて説明する意義は認められない。
 また、阿部氏は、「つまり、第F文では、第A〜第E文の例を一般化しつつ、第@文に加えて重要な新しい情報を述べるのである。」として、第F文を「柱の文」として扱っている。しかし、[3]で重要なのは、[2]で問いかけられている〈「ほろびる」ことの意味〉である。第F文は、個体が残らず消える消え方の説明をしているにすぎない。しかも、内容は第A文〜第E文で書かれていることを抽象化したにすぎない。それを、要約文を意識しすぎたために、要約文にするのに都合のよい第F文を柱にしたのではないだろうか。これでは、「柱の文」の概念まで変質させてしまうことにならないだろうか。

 「本文U」について検討する。

サークル








阿部氏







「本文U」は、「どういうときに動物が絶滅するのか」について書かれている。従って、柱の段落は、その問いかけがされている[4]とする。[4]の柱の文は、第@文となる。
 阿部氏は、「本文U」の柱の段落を、[4]で問いかけられていることに対して答えている[5]としている。ここには、[4]の答えが確かにあるので、[5]の文相互の関係についても検討する。
 阿部氏は、一七四頁〜一七五頁で、[5]の文相互の関係について説明している。

サークル
C
B A
@










第5段落の教材文  (☆)

@人間がつかまえるという問題はともかく、環境のえいきょうについては、ほとんどの動物に当てはまる。
A動物というのは、温度・湿度・食物などの条件がそろった環境にしか住まないのがふつうである。
Bしたがって、環境が変化すると、トキのような危機がおとずれる。
Cでは、動物と環境との関係を、ハチドリという鳥を例に、具体的に見てみよう。
阿部氏
補足 まとめられ
―――――――
C
B
A @



ここでも要約文を意識するあまり、文の包含関係を見失っていると考えられる。ここで重要なことは、「どういうときに動物が絶滅するのか」である。これに対する答えは、第@文で述べる「環境の影響」である。だから、表現は曖昧ではあるが、この文を「柱の文」とし、第A文・第B文は、トキを例にして第@文をくわしく説明していると考えるべきである。ここでも阿部氏は、要約文に都合のよい文だけを柱にしているのである。最初に文の包含関係をしっかりと把握し、その後で要約に都合のよい文を見つけていくという手順を踏まないと、いつまでたっても直感に頼らなければならないことになってしまうのではないだろうか。
 また、[5]の第C文は、包含関係から考えると、[6]〜[8]で述べられる「ハチドリ」の話を包括している文になる。従って、第C文も[5]の「柱の文」としなければならない。
 「本文V」について検討する。「本文V」は、[9]で問いかけられている「人間と環境との関係」について述べている。従って、柱の段落は[9]となる。そして、[10]と[11]は、[9]に対するくわしい説明となる。
 ところが、[9]の問いかけである「人間と環境の関係」に対する答えが、本文でははっきりしない。[11]に答えらしきことを書いているようではある。しかし、[11]は、筆者が後文である[12]に対する橋渡しをかなり意識したまとめとなっているため、はっきりとした答えとはならなかった。[11]は、問いかけの答えと段落の柱がねじれてしまっている。つまり、[9]の問いかけの答えだけから考えれば、[11]の第A文が柱となる。しかし、段落内の文関係だけから考えれば、指示語の関係から[11]の第C文が柱となる。阿部氏は、要約文を作ることが優先しているので、ここでは段落内の文関係よりも内容を優先して第@文と第A文を柱としている。これでは、論理の分析というよりも、内容の分析だけになってしまっていないだろうか。論理よみなのであるから、ここでは、論理を優先して、要約文を作る時に改めて[11]の第A文の重要性を指摘した方が、段落内のねじれの説明がついて、生徒は納得しやすいはずである。段落内のねじれを確認することも論理よみの主要な役割である。

サークル
11
C
B A @

















第11段落の教材文  (☆)

@このように考えると、ある限られた環境でしか生きられないという点では、人間も他の動物も全く同じである。
Aむしろ、人間は、肉体からみれば、環境に適応する能力が高くはない。
Bこれは、人間という動物の大きな弱点である。
Cこの弱点があるからこそ、人間は、生き延びるためにちえを働かせ、技術をもったのかもしれない。
阿部氏
11
補足
――― ――――
C B
A
@




まとめられ

 最後に「後文」について検討する。

サークル
12
C
{ ( B A )}
@














第12段落の教材文  (☆)

@人類はほろびるかという問いに対して、今のところはイエスともノーとも答えられない。
A結果は、人間が自分の弱点にどこまで目を向けるかで決まってくるだろう。
Bはっきりしているのは、人間が、自分も動物の一種であることをしっかり自覚し、環境を守り続けようと決意するかどうかにかかっているということだ。
Cこれなしには、人類は確実にほろびるであろう。
阿部氏
12
C
B
A
@









ここでも阿部氏は、要約文を意識して、[12]の第A文と第B文を柱としている。しかし、ここはどう考えても、前文の問題提示である「人類はほろびるか」に対する答えがこなければならない。従って第@文と第C文が柱の文となるのはあきらかである。第A文と第B文は、どちらともいえないことに対する説明であり、かつ滅びる時の条件についての説明である。

三 まとめ

 阿部氏の分析を検討してみると、全体的に、要約することを前提とした構造のとらえ方になっている。構造の分析と、要約はあくまでも別なものとしてあつかっていかないと、常に文の内容のとらえ方によってゆれるという恣意的な構造のとらえ方になってしまう。これでは、生徒に混乱をまねくことになる。この混乱を防ぐためにも、構造を分析する時には問いを柱とするとらえ方をした方がよいと考える。
 また、要約文を書く段でも、問いを柱とすることは決して無駄にならない。文章の内容を把握する時は、まずは何について書くのか(「問い」)という筆者の宣言を我々はとらえ、その後で、その内容(「答え」)を追求していく。「問い」をとらえるというのは、内容を把握するためのプロセスである。だから、要約文になった時に、たとえ、その問いの文が内容に包含されてしまっても、構造や内容を把握するためには重要な役割を果たしているのである。結果である「答え」だけを最初から捜させていては、文章を要約するのが苦手な生徒はいつまでたっても苦手なままでいることになりはしないだろうか。
 論理関係を説明するための新しい用語については、本章では新しくした有効性を認められなかった。本章の構造分析で、今までどおりの用語で分かりにくいところはなかったはずである。よって、論理関係を説明する用語は、これまで通りのものを用いるべきである。

(☆) 教材文については、井上が補った。