07010104   科学的「読み」の授業研究会『研究紀要Y』(2004年8月1日 発行)より      TOPへ戻る

研究紀要Yについて

   下記の内容の原稿が掲載されています。お読みになりたい方は、読み研の加藤郁夫さん( kumasan888@kawachi.zaq.ne.jp )までお問い合わせください。

「研究紀要Y」目次
はじめに    
1 詭弁の天才はぼくだった── 「オツベルと象」(宮沢賢治)のゆくえ ── 須貝千里
2 詩の「構造よみ」は「起承転結」だけでよいか ── 加藤郁夫氏の再反論にこたえる ── 鶴田清司
3 物語・小説の授業における「『問い』づくり」指導についての考察 阿部昇
4 語りの仕掛けを読む  ── 「なめとこ山の熊」の「私」 ── 加藤郁夫
5 ディベートで読む『こころ』の授業 ── 二値的ろんだいによる形象読みは有効か ── 岩崎成寿
6 「読み」から「話す」への発展 小林義明
7 説明的文章の構造よみをどうおこなうか 丸山義昭
8 説明文の授業をどうすすめるか ── 「クジラたちの音の世界」を例に ── 五十嵐淳
9 記録文の構造よみの実践的問題── 松戸読み研と新潟サークルに関わって ── 長畑龍介
10 批判的吟味で豊かな調べ学習を 高橋喜代治

はじめに
   
   読み研の研究紀要Yの原稿の中からいくつか私のホームページで公開させていただけることになりました。読み研の研究紀要は、市販されているものではありませんが、発行時点での読み研の最先端の原稿が掲載されています。
   まず、一つ目の原稿は、「8 説明文の授業をどうすすめるか ── 「クジラたちの音の世界」を例に ──」(五十嵐淳さん)です。
   説明的文章の読み方指導をどう進めるのか、新潟サークルの研究の成果がつまった五十嵐淳先生の原稿です。ぜひ、お読みいただき、授業に生かしていただければと思います。教材文が手元にない方のために、教材文を掲載しておきます。
  原稿の公開を許可いただきました五十嵐淳さんに感謝いたします。

教材文            光村・中1教材

クジラたちの音の世界   中島将行

[1] 動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の回りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している。特に、群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要なことである。
[2] 海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝え合ったりしているのだろう。クジラを例に調べてみよう。
[3] クジラたちは、周りの状況を的確に察知し、とても上手に生活を送っている。そのことから、クジラたちは、情報を受信・発信する何か優れた手段をもっているのではないかと、かなり以前から話題になっていた。しかし、その「何か」は、長いことなぞのままだった。
[4] ところが、クジラが鳴くことが知られるようになって、このなぞが解明され始めた。クジラの発する音が、優れた働きをしていることが明らかになってきたのである。
[5] クジラは高い音から低い音まで、さまざまな種類の音を出すことができる。しかも、非常に短い音と、比較的低い、長く続く音の二種類を、目的に応じて使い分けているのである。
[6] 短いほうの音は、「クリック」とよばれる。これは周りの様子を知るための音である。クジラの聴覚は大変に発達している。自分の発したクリックが周りの物に当たり、はね返ってくるのを聞くだけで、それがどのくらいの大きさなのか、何でできているのか、また、止まっているのか動いているのかなどがわかるのだ。
[7] さらに、自分たちのえさとなる魚たちが、どの方向へ、どのくらいの速さで進んでいくのかも、このクリック音の反射で把握していく。これは、人間が海中を探るために使う探知機と同じ仕組みである。
[8] もう一つの、低い連続した音は、 「ホイッスル」 とよばれる。 これは、主として仲間どうしのコミュニケーションに用いられる。いわばクジラたちの「言葉」といえるだろう。おもしろいことに、同じ種類のクジラでも、群れによって使われるホイッスル音は違うことがある。それぞれの群れは、その群れに特有な音を使って、その群れにしか通じない方法で情報を伝え合っているのかもしれない。
[9] ザトウクジラは、このホイッスル音で「歌」を歌うことが知られている。五分から二十分くらいの間隔で、まるでメロディのように、ひとまとまりの決まった音をくり返しくり返し発するのだ。こうした音を発するのは、成熟した雄のザトウクジラであり、その期間は繁殖の時期が中心となる。このことから、ザトウクジラの「歌」は、主として雌や、ライバルとなる雄に自分の存在を示すためのものであろうといわれている。
[10] それでは、クジラたちは、なぜこのように巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報をたがいに伝え合ったりするようになったのかを考えてみよう。
[11] 彼らは、光の届きにくい海の中で生活している。こうした海の中では、二十メートルほど先を見わたすのがやっとである。目で見る情報はとても頼りないものとなる。
[12] しかし音は、たとえ暗やみだろうと響きわたる。それだけではない。水中では、音は陸上の五倍という驚くべき速さで伝わるのである。音こそまさに、海の中での情報の受信や発信にはうってつけの手段であるといえよう。すなわち、クジラたちは、自分たちが暮らす環境の中で、いちばん適した手段を活用しながら、生活を送っているのである。

説明文の授業をどう進めるか  −「クジラたちの音の世界」を例に− 五十嵐 淳(新潟県新津第一中学校)

一 はじめに

 読み研・新潟サークルは、この十年近く、説明的文章の「教授過程の定式化と教材分析の定説化」に取り組んできた。その成果の一部は、この『研究紀要』誌上でも公表してきたところである。いまだに未解明の間題も多いのだが構造よみについては、はば定式を明らかにできたのではないかと自負している。(その詳細については、本紀要の丸山義昭氏の論考をぜひお読みいただきたい)。
 本稿では、紙幅が限られているため、説明的文章のうちとくに説明文にかぎって、新潟サークルが追究してきた教授過程の全体像をお示ししたいと考えている。
 まず、おおまかにその全体像を述べてみよう。

(1) 表層のよみ

 @生徒に教材を読ませる(黙読・音読・微音読など)。
 A語(句)の読みと意味の確認−生徒に質問させる。
 B教師による取り立て読み指導と取り立て意味指導。
 C資料提示(必要に応じて)。

(2) 文種の(記録文・説明文・論説文)の(仮)決定。

(注)(仮)としたのは、説明的文章ではふつう、記録文的要素・説明文的要素・論説文的要素が混在するため、最初の段階では文種を断定できないことがあるからである。しかし、一応決定しなければ次の構造よみには進めないので、仮決定をして授業を進めるわけである。どの文種になるかは、構造よみで明らかになる。

(3) 構造よみ(前文=問題提示、本文、後文=まとめ・つけたし−を指標として、包括概念で文章構造を把握する)

 @問題提示があるかどうかを読みとる。
 A問題提示がどこまで包括しているかを読みとる。

(注)本文と思われる部分全体を包括していないと前文とはいえない。逆に言えば、包括していれば、そこまでが本文であることもこの段階で明らかになる。つまり、前文と本文全体はセットで読みとるのである。なお、問題提示には、問いかけのかたちになっているものと、まとめをあらかじめ述べているかたちのものがある。後者の文章は一般的には「頭括型」と呼はれる。

 B全文(前文・本文)のまとめになっている後文があるかどうかを読みとる。

(注)「まとめ」とは、全文と包括関係にあるということである。まとめ方には、全文を一般化・抽象化したり、別の角度から意味づけをしたり、もう一度全文を要約したりするなどのタイプがある。
(注)本文だけのまとめは後文に入れない。(詳しくは丸山氏の論考を参考にされたい)。

   C全文と包括関係のない後文(つけたし)があるかどうか読みとる。
(注)具体的には、特に付け加えたいことや、新たな問題提示がそれにあたる。

 D本文内の段落関係を把握し、本文T・U・V・・・と把握できるような文章では小見出しを付ける。
(注)小見出しには、「柱の段落」の「柱の文」の「柱の言葉」を使うのがふつうである。

(4) 要約よみ

 @内容を豊かにつかむ。(五節 内容をつかむ」)
(注)たとえばどんな読みとりをするのか挙げてみる。
    ・体験や実感を出したり、他の知識などを付き合わせたりして、表現についてのイメージをふくらませる。
    ・語句の言い換えや繰り返しに注意し、その理由も考える。
    ・文末表現の移りに注意する。
      ・使われている語句について、意味的に近接の語句を持ってきて比較する。
      ・キーワードを見つけ、その文脈的意味を掘り起こす。   など。

 A前文・本文・後文内の段落関係と、柱の段落内の文関係を把握する。(五節 「論理をつかむ」)
 B要約文を作る。(五節 「要約する」)

(5) 要旨よみ

 @前文・本文・後文の要約を検討し、全文の要約(要旨)を作る。(六節 「全文の要旨を作る」)
 A題名について考える。(六節 「題名について考える)」
 Bこの文章をどう受けとめるか考える。(六節 「この文章をどう受けとめるか」)

 では次から、説明文「クジラたちの音の世界」(中島将行、光村図書中学1年)を使って、具体的な分析の仕方や授業の進め方について述べてみる。

ニ 表層のよみ

▼辞書や百科事典、インターネットなどで調べさせる語句(必要に応じて教師が解説してもよい)

3段落「受信・発信」「察知」
6段落「クリック」
7段落「把握」「探知機」
8段落「ホイッスル」「コミュニケーション」「いわば」
9段落「ザトウクジラ」
11段落「見わたす」
12段落「うってつけ」

○ 教科書資料のCDで、実際にクジラの音を生徒に聞かせてみる。
○ ビデオ『NHKスペシャル・海・クジラだけが知っている』を最後に視聴させるのもよい。

▼この教材における「表層のよみ」のポイント

(1)クジラを機械にたとえている表現(3段落「情報を受信・発信する」、7段落「探知機と同じ仕組み」)を押さえて、その仕組みの精緻さ・正確さをイメージさせる。
(2)比喩表現である8段落「言葉」と9段落「歌」について、そのような比喩を使うことによって何を表そうとしたかを読みとらせる。つまり、ホイッスル音が、コミュニケーション・情報伝達の手段として使われることを比喩したものが「言葉」であり、求愛行動など気持ちの伝え合いの手段として使われることを比喩したものが「歌」なのである。

三 文種

 説明文
 クジラの情報伝達の方法が科学的・実証的に説明されている。その方法である、クジラの発する音の研究は進んでおり、「クリック」「ホイッスル」といった音の種類も海洋生物学では定説になっているものであるから、この文章は説明文だと言える。

四 構造よみ

■全文を三部構造で読みとる。

▼前文と本文を読みとる

(1) 問題提示があるかどうか読みとる。

 最初に目を引くのは2段落の「海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝えあったりしているのだろう。クジラを例に調べてみよう」である。授業では、大部分の生徒がここを指摘することが予想される。
 また、1段落の@文「動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の周りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している」が全体的な問題提示ではないかという読みも出る。

(2) 2段落の問題提示に対する答え、もしくは詳しい説明がどの段落になっているか読みとる。

 まず、授業で多数派になると予想される2段落前文説を検討する。
 9段落までがその答え、もしくは詳しい説明である。クジラが「どのようにして情報を得たり、伝えあったりしている」のか、その方法を説明しているのは9段落までで終わり、10段落からは「なぜこのように巧みに音を使って」情報の受信・発信をするのかが説明されている。

▼後文を読みとる

(1) 10段落以降が本文になるか後文になるかを考える。

 2段落の問題提示が9段落までしか包括しないとしても、10段落以降が後文であれば、2段落は前文になる可能性がある。そこで、10段落以降が後文になるかどうか読みとる。
 10段落以降は、10段落を柱として12段落までがひとまとまりになる。つまり、10段落の「なぜこのように巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報を互いに伝え合ったりするようになったのか考えよう」を問題提示として、11段落と12段落がその答え・詳しい説明になっているのである。
 となると、10段落から12段落までは、全文をまとめているといった後文ではなく、2段落から9段落まで説明した問題とは別な問題を説明している本文ということになる。つまり、この文章には後文がないのである。

(2) 2段落〜9段落と10段落〜12段落の関連を読みとる。

 2段落〜9段落と10段落〜12段落のそれぞれが本文であるということは、次の点からもわかる。
 まず、文末表現をみてみると、2段落最後の文末表現「〜調べてみよう」に対応して、9段落までは調べた結果を述べる言い方になっている(たとえば3・4段落の記録文的な書かれ方や、9段落の最後「〜といわれている」という言い方)。それに対して、10・11段落は、10段落最後の「〜考えてみよう」に対応して、考えを述べ、最後にまとめる言い方になっている。このことからも、2段落の「〜調べてみよう」が9段落までを包括し、10段落の「〜考えてみよう」が11・12段落を包括していることは明らかである。
 さらに、この二つの段落の言い方はほとんど同じである。2段落の「〜調べてみよう」と10段落の「〜考えてみよう」が対応しているし、2段落は一つの文に、10落は逆に二つの文にすることができるからである。つまり、2段落と10段落は並列の問いなのである。

▼再度、前文を読みとる

 もう一つの前文候補だった1段落が前文になるかどうか読みとる。
 1段落は問いのかたちになっていないので、前文にする生徒は少ない。しかし、1段落の@文「動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の周りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している」を、2段落〜12段落が「海で暮らす動物たち」のうちクジラを例にして述べている。
 問題提示には二種類ある。一つは問いのかたちで問題を提示するものであり、多くの文章にみられるものである。もう一つは結論を最初に提示しているもので、いわゆる「頭括型」と呼ばれるものである。この場合の問題提示は全体の結論でもあるので、一般的・まとめ的な述べ方になっている。
 この文章は、後者、すなわち典型的な「頭括型」の説明文なのである。
 つづいて、2段落から9段落までが本文T、10段落から12段落までが本文Vとなり、後文なしとなる。

(注)この文章は「頭括型」を教えるに適した教材である。問題提示に二種類あることを教えてから教材を検討させる演繹的なやり方が原則だろうが、「頭括型」の文章は少ないので、教材を検討させてから「頭括型」を教えていくという帰納的なやり方も実践的には面白い。

■構造表

前文     1段落    本文を包括する問題提示がある。
本文T 2段落     2段落が柱。3〜9段落はそのくわしい説明。
   ↓
9段落    「クジラの発する音の優れた働き」
本文U 10段落     10段落が柱。11〜12段落はそのくわしい説明。
   ↓
12段落  「クジラたちが巧みに音を使う理由」
(後文なし)

■構造よみの授業例

T@ 全文を前文・本文・後文の三部構造で読みとりましょう。前文はありますか。あるとすると、何段落までが前文ですか。
P1 あります。2段落までが前文です。(B案→大多数)
P2 あります。2段落だけが前文です。(A案→少数)
TA 問題提示を指摘しなさい。はとんどの人がB案なので、B案の人から聞きましょう。
(注)本来ならば、少数派から発言させるか、もしくは両案から意見を聞くのが原則である。ここは、教師に意図があるので、わざとB案だけを問題にしているのである。
P3 2段落の「海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝え合ったりしているのだろう。クジラを例に調べてみよう」が問題提示です。
TB この間いに対する答えはどの段落に書いてありますか。
P4 9段落です。
TC では、2段落の問題提示が包みこんでいるのは2段落までですか。
P5 違います。2段落までです。
TD なぜ2段落まで包みこむのか、5段落と6〜9段落の関係を明らかにしながら説明できますか。
P6 5段落で述べられるクジラの出す二種類の音のうち、「クリック」と呼ばれる短い音について6・7段落がくわしく説明し、「ホイッスル」と呼ばれる長い音について8・9段落がくわしく説明している関係なので、6〜9段落は5段落に包みこまれるからです。だから結局、2段落は9段落までを包みこむのです。
TE 10段落以降が後文ならば、2段落が9段落までしか包みこまないとしても、2段落は前文ということになります。2段落以降は、「まとめ」もしくは「新たな問題提示」の後文といえませんか。
P7 いえません。違う問題について説明しているので、後文ではありません。
TF それは、どこに書いてある、どんな問題ですか。
P8 10段落の「なぜこのように巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報を互いに伝え合ったりするようになったのか考えよう」という問題です。
TG これは、「新たな問題提示」ではないのですか。
P9 違います。10〜12段落は、なぜクジラたちが音という手段を使うのかを説明しているので、新たな問題提示ではなく、本文のうちです。
PlO それに、2段落の問題提示と10段落の問題提示は並列だと思います。2段落の「〜調べてみよう」に対応して9段落までは調べたことを述べる言い方になっているし、10段落の「〜考えてみよう」に対応して11・12段落は考えたことを述べる言い方になっているからです。つまり、これは、本文と後文という関係ではなく、本文どうしという関係であることを表しています。
TH ということは、2段落までは前文と言えますか。
P11 いいえ、前文とは言えません。
TI では、次にA案について検討します。問題提示を指摘しなさい。
P12 1段落の「動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の周りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している」が問題提示です。
TJ 2段落以降の段落とは、どのような関係になっていますか。
P13 2段落以降が、クジラを例にして、1段落の「特有の方法」をくわしく説明しています。
TK 全体の構造をまとめると、どうなりますか。
P14 1段落が前文、2〜9段落が本文T、10〜12段落が本文U、後文はありません。
TL ちなみに、この文章は、問いのかたちで問題を提示しているのではなく、結論を最初に提示している「頭括型」と呼ばれる説明文です。
TM 本文T・Uの柱の段落の柱の文を確認します。
P15 本文Tは、2段落の「海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝え合ったりしているのだろう。クジラを例に調べてみよう」。本文Uは、10段落の「なぜこのように巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報を互いに伝え合ったりするようになったのか考えよう」です。
TN では、柱の文の中の言葉を使って、それぞれの小見出しを考えましょう。(以下、省略)

五 要約よみ

【前文】

■内容をつかむ(本文との対応を読みとる)

 @文の「それぞれ特有の方法」をくわしく説明しているのが本文である。つまり、本文Tはクジラ特有の「クリック」音と「ホイッスル」音をくわしく説明し、本文Uはなぜ水中の伝達手段として音が有効なのかを説明しているのである。
 また、「身の周りの情報を得たり」が「クリック」に、「得た情報や気持ちを伝え合ったりして生活している」が「ホイッスル」に対応している。

■論理をつかむ

 1段落では、@文プラスA文。A文を補足説明などとしないこと。@文に対して、A文は「群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要なことである」と述べていて、それは別な内容である。

■要約する

 省略できるところははとんどない。言い回しや文末表現を多少変える程度だろう。

《要約文》
 動物たちは特有の方法で、身の周りの情報を得たり、得た情報や気持ちを伝え合ったりして生活している。群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要だ。

【本文T】

■内容をつかむ (文末に留意する)

 2段落最後の文末表現「〜調べてみよう」に対応して、9段落までは調べた結果を述べる言い方になっている。
 たとえば、調査した結果を述べるということで、3・4段落は記録文的な書かれ方になっている。具体的には、3段落の「〜かなり以前から話題になっていた」「〜長いことなぞのままだった」、4段落の「〜このなぞが解明され始めた」「〜明らかになってきたのである」といった文末表現がそれである。
 また、9段落の文末表現も「〜が知られている」「〜といわれている」とあるように、調べたことを述べる言い方になっている。
 これはつまり、2段落の「〜調べてみよう」が9段落までを包括しているからである。

■論理をつかむ

 問題提示である2段落が柱。3〜9段落をそれをくわしく説明している関係である。
 次に3〜9段落の段落どうしの関係を考える。3・4段落は、クジラたちの情報伝達の手段が明らかになってきた記録文的に述べているので、3段落プラス4段落。5段落は、4段落のA文「クジラの発する音が、優れた働きをしていること」のくわしい説明。その5段落に対して、つづく6〜7段落は短いほうの音「クリック」のくわしい説明、8〜9段落は低い連続した音「ホイッスル」くわしい説明、という関係で5段落に包括されている。

  ← { 3 + 4 + ( ← 6 + 7 )
← 8 + 9 )
}

 *矢印はすべて 「くわしく説明」

■要約する

 《要約文》

 クジラは二種類の音を目的に応じて使い分けている。短い音は「クリック」とよばれ、これは周りの様子を知るための音である。低く、長く続く音は「ホイッスル」とよばれ、これは主として仲間どうしのコミュニケーションに用いられる。

【本文U】

■内容をつかむ (文末に留意する)

 11・12段落は、10段落最後の「〜考えてみよう」に対応して、考えを述べ、最後にまとめる言い方になっている。たとえば、12段落の「〜であるといえよう」「〜生活を送っているのである」といった文末表現がそれにあたる。

■論理をつかむ

 問題提示である10段落が柱。11段落は「目で見える情報」の頼りなさについて、12段落は音という手段の特長について、それぞれくわしく説明している。11段落と12段落は並立の関係にあって、10段落の問いにそれぞれ答えているとも言える。

■要約する

 《要約文》
 海の中では目で見える情報はとても頼りないものであるのに対して、音はたとえ暗やみのなかでも響きわたるし、陸上の五倍という速さで伝わる。すなわち、クジラたちは、自分たちが暮らす環境の中で一番適した手段を活用して生活を送っているのである。

10 ← ( 11 + 12 ) (10を11・12がくわしく説明)

六 要旨よみ

■全文の要旨を作る

 前文は本文の内容を一般化したまとめなので、前文・本文T・本文Uの要約文をつなぎ合わせて要旨(本文全体の要約)を作る。

 《要旨》
 動物たちは特有の方法で、身の周りの情報を得たり、得た情報や気持ちを伝え合ったりして生活している。群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要だ。
 クジラは二種類の音を目的に応じて使い分けている。短い音は「クリック」とよばれ、これは周りの様子を知るための音である。低く長く続く音は「ホイッスル」とよばれ、これは主として仲間どうしのコミュニケーションに用いられる。
 海の中では、目で見える情報はとても頼りないものであるのに対して、苦は暗やみのなかでも響きわたるし、陸上の五倍という速さで伝わる。すなわち、クジラたちは、自分たちが暮らす環境の中で一番適した手段を活用して生活を送っているのである。

■題名について考える

 「音の世界」という題名は、クジラたちの情報の発信・受信手段が、豊かな広がりを持っていることを予想させる。実際、精密機械のような「クリック」や、「言葉」「歌」にたとえられる「ホイッスル」の働きは、緻密・精巧であると同時に非常に人間的でもある。生徒も興味をもって文章に入っていけるだろう。
 「クジラの」ではなく、「クジラたちの」としたのは、音がクジラ同士のコミュニケーションの手段であるからだろう。さらに、「−たち」には、クジラに対する筆者の親愛感も読みとることができる。

■この文章をどう受けとめるか
 とくに主張がある文章ではない。素直に「クジラたちの音の世界」を楽しく読めばよい。ただ、ふだんは意識することのない、人間以外の生物たちも情報伝達の豊かな世界をもっていることは認識してほしい。

七 おわりに

 従来、読み研の説明的文章の指導は「しぼりこみ」だと言われてきた。実際、「柱」を問題にし、要約を作りあげていく作業は、肉をそぎおとし、骨だけにしていくようなところがある。しかし、それだけで本当に説明的文章を読んだことになるのか、という疑問が私の中にはあった。
 というのは、教科書の説明的文章は、純粋の学術論文ではなく、読み手が子どもであることを意識してか、多分に随筆的・文学作品的要素が入りこんでいる文章であるからだ。つまり、文学作品を読むような読みとり方もしなければ、その文章の読みとりとしては不十分ではないかと考えたのである。「しばりこみ」ではなく、「ふくらます」よみである。
 そこで、前述の教材分析には、とくに「表層のよみ」や「要約よみ」の中に、そのような読みが少し入れてある。形式論理=包括論理の妥当性とともに、そのことの是非についても諸氏のご批判を仰ぎたい。