『文章を上手につくる技術』上條晴夫著(あさ出版) からの学び

はじめに
『文章を上手につくる技術』(2003/03/01 第一刷発行)を読んでいて、気づいたことを書き込んでいきます。背景色が水色の部分は、著書からの引用です。みなさんからのご意見をお待ちしています。

高校入試の作文に学ぶ P114〜115

 例えば最近よく、公立高校の入試の作文に次のような課題が出されています。

課題 次の題で一から三の条件に従って、作文を書きなさい。

ボランティア活動について、

一 題名は書かない。
二 二段落構成とし、前段では体験や見聞を具体的に書き、後段ではそのことに対する自分の考えを書くこと。
三 二百字以内で書くこと。

 ここでは要するにボランティア活動に関する論理的な文章を書くことが求められています。
 この作文の「模範解答例」にあたるものを探してみると、次のものが見つかりました。

 私は特別養老老人施設の清掃のボランティアに参加しています。最初のうちは、照れくさいという気持ちも強くあって、何度もやめようと思いました。でも、やはり続けて良かったと思っています。
 今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。この体験を通して、私はボランティア活動は人のためというよりも自分のためと思うようになりました。

 この課題と解答例も、「トールミン・モデル」に照らして分析してみると、どうなるでしょうか。
 まず、前後の「体験や見聞」が、「データ(事実)」を書くものであることはすぐに分かります。
 問題は後段の「自分の考え」という条件です。後段には前後の「データ」をもとにした「理由づけ」と「主張」を書きます。最後の「私はボランティア活動は人のためというよりも、自分のためと思うようになりました」が、「主張」です。ですからそれにつながる「理由づけ」が書き込まれていればよいということになります。この例ではほぼそれができています。
 このような、前後に、「体験・見聞」を、後段に「自分の考え」を書くという二段落構成の文章は、一般的に「理由づけ→主張」の区別がはっきりせず、全体が曖昧な文章になってしまうことが多いのです。
 論理的な文章を書こうとするときには、「トールミン・モデル」を使って、「データ」「理由づけ」「主張」の三つの要素が正確に書き込まれているかどうかを点検するとよいのです。これが正確に行われていれば、文章に説得力が出てくるのです。

ここで、課題と模範解答例を、トールミン・モデルで上條氏は分析しているのだが、微妙に食い違いがあり、分かりにくい点がある。以下、食い違いについて説明する。

まず、前後の「体験や見聞」が、「データ(事実)」を書くものであることはすぐに分かります。

課題作文の条件二には「二段落構成とし、前段では体験や見聞を具体的に書き、後段ではそのことに対する自分の考えを書くこと。」とあるので「前段に体験や見聞を書かなければならない」のに、上條氏の分析の「前後の「体験や見聞」」との記述があり、食い違っている。もしかすると「前後」は、「前段」の誤植なのかもしれない。
ただ、模範解答例の書き方だと、「前後」の段落に「体験」が書き込まれているので、困る。

今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。

上の後段の一文は、私の体験の記述である。前段は、最初の頃の体験(思い)「最初のうちは、照れくさいという気持ちも強くあって、何度もやめようと思いました。」と現在の体験(思い)「でも、やはり続けて良かったと思っています。」とが述べられ、その続きとして後段の「今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。」という一文がある。そう分析すると、上條氏の分析どおり「前後の「体験や見聞」」ということになる。
ただし、前後に「体験や見聞」を書くということは、課題作文の条件二を破るということで、問題があるのだが、その点については上條氏は問題にしていない。
私なら、前段に「体験や見聞」を書くという条件を守るために、後段の「今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。」の一文を、前段にもっていく。

さて、上條氏は「今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。」の一文を、次のように理由づけとして分析している。(直接的な書き方で、この一文を「理由づけ」と分析していないので、注意)

 問題は後段の「自分の考え」という条件です。後段には前後の「データ」をもとにした「理由づけ」と「主張」を書きます。最後の「私はボランティア活動は人のためというよりも、自分のためと思うようになりました」が、「主張」です。ですからそれにつながる「理由づけ」が書き込まれていればよいということになります。この例ではほぼそれができています。

上の書き方からすると、上條氏は「今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。」の一文を、理由づけとして分析していると読みとれる。(後段には「理由づけ」「主張」の二つを書く。最後の一文「私は…思うようになりました。」は「主張」。「この例ではほぼそれができている」=「主張」につながる「理由づけ」が書き込まれている」。)

さらに「問題は後段の「自分の考え」という条件です。後段には前後の「データ」をもとにした「理由づけ」と「主張」を書きます。」という書き方からすると、前段に「データ」、後段に「理由づけ」と「主張」の二つを書くのだと上條氏は述べていると判断できます。つまり「前後の「データ」」は「前段の「データ」」の誤植の可能性が大きい。
この「今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。」の一文は、「理由づけ」ととらえれば、「データ(体験・見聞)」としては位置づけないのだろうか。言い換えると、「理由づけ」でもあり「データ(体験・見聞)」でもあるが、この模範解答の書き方の場合は「理由づけ」の要素が強いので、「データ(体験・見聞)」としては位置づけないのであろうか。
さらに新たな疑問が出てくる。「データ(体験)」の書き方と「理由づけ」の書き方と「主張」の書き方には、違いがないのか。上條氏の分析のように、文章構成を分析して「データ」「理由づけ」「主張」の役割をしていれば、書き方に関係なく「データ」「理由づけ」「主張」となるのであろうか。
この点がはっきりしないのは、「まず、前後の「体験や見聞」が、「データ(事実)」を書くものであることはすぐに分かります。」の「前後の「体験や見聞」」という記述にも原因がある。

さて、模範解答は、私の「トールミン・モデル」での分析では、次のようになる。

前段 
1私は特別養老老人施設の清掃のボランティアに参加しています。
2最初のうちは、照れくさいという気持ちも強くあって、何度もやめようと思いました。
3でも、やはり続けて良かったと思っています。
後段
4今では、お年寄りから感謝の言葉をもらうと、私の方がうれしくなって、元気をもらって返ってきます。
5この体験を通して、私はボランティア活動は人のためというよりも自分のためと思うようになりました。

1〜5文までが「体験」であり、「データ」である。それは「○○している」「○○と思った」「○○と思うようになった」という文末表現が「体験」であることを示している。

では、「主張」は、どう記述できるか。例えば「ボランティア活動は、私たち自身の成長を実感できるよい機会です。ぜひ、みなさんも積極的に参加してみましょう。」
次に「理由づけ」は、例えば「私は、ボランティアを続ける中で人のために自分のできることをすることの喜びを見つけることができました。人のためにボランティアをするという意識ではなく、自分のためにボランティアをさせていただくという意識をもつことができたのは、私自身の大きな成長です。ボランティア活動を通して、さまざまな成長を私たちは実感できるでしょう。」
ただ、課題作文の二百字以内でという条件は、守れていない。

そこで、模範解答例を少し手直ししてみると次のようになる。

前段 
1私は特別養老老人施設の清掃のボランティアに参加しています。
2最初のうちは、照れくさいという気持ちも強くあって、何度もやめようと思いました。
3でも、やはり続けて良かったと思っています。
4今では、お年寄りからいただく感謝の言葉に、私の方がうれしくなって、反対に元気づけられているからです。
後段
5このように、ボランティア活動は、人のためというよりも自分のためになるので、多くの人が体験すべきです。

この手直しした解答例の場合、4文は「体験」である。
上條氏が「問題は後段の「自分の考え」という条件です。後段には前後の「データ」をもとにした「理由づけ」と「主張」を書きます。」と述べるように、この手直しした解答例の場合は後段の一文が「ボランティア活動は、人のためというよりも自分のためになるので、」(理由づけ)+「ボランティア活動は、多くの人が体験すべきです。」(主張)の二つの要素を兼ね備えている。

主張には「書き手の何らかの価値判断(「よい」「よくない」「美しい」「美しくない」「正しい」「正しくない」「すべきである」「すべきではない」「していこう」「しないようにしよう」など)」が書き込まれていることが必要である。
データ(事実)には「○○した。○○と感じた。△△には、○○と書いてある。テレビで、○○を見た。」という「したこと・思ったこと」を書く。
理由づけには「データ(事実)」と「主張」の橋渡しとなる説明を書く。