0111 授業研究からの学び     TOPへ戻る

はじめに
前任校の下部中学校の公開授業を参観して気づいたことを以下にまとめました。授業を提供してくださった小林先生へのお礼と、授業を作り上げる上で重要なポイントの整理もかねたものです。研究会の中で気づいたことは発言したのですが、家に帰って「対話を成立させるために何か具体的な手立てがないか」と考えていたら、ここがポイントではないかと気づいたこともでてきましたので、ここにまとめておきます。

011103  H21.11.29(金)…下部中公開「小林里辺香」先生の歴史の授業「明治維新」(中2)…対話の成立を目指す授業

普段の授業の積み重ねがあればこその授業

@導入の家庭学習の確認 …基礎知識の定着のための継続指導
…授業のはじめに小林先生は、家庭学習の実施の状況を一人ひとり確認なさっていた。授業を復習するために宿題として復習ノートを作成させているのであるが、一緒に勤務させていただいていた時に生徒たちのノートを見させてもらうと、一人ひとり違う内容で、しかも意欲的に取り組んでいることが感じられた。自分なりに工夫して自由に取り組むことができる点と、たぶん小林先生が授業中に丁寧にどのように復習ノートを書いたらよいのかという指導をなさっている点と、授業でやってきたかどうか確認している点が、生徒のモチベーションを高める上で役立っているのだと思われる。
Aペア学習 …気軽に生徒同士で質問でき、確認しあうことができる
…授業の中で、生徒同士が気楽に質問しあったり教えあったりできるようにペア学習を活用している場面がたくさん組み込まれていた。基本的には隣同士でペア学習を行うのだが、生徒によっては後ろの生徒に声を掛けている姿が見られた。やはり、わかりたいという気持ちがその行動にはあらわれていること、人間関係づくりが基盤にあること(開かれた学級作りができていること)、話し合いをしたくなる課題であること、などがペア学習を支えていたといえる。

対話を成立させるために具体的に何ができるか

物との対話…ふんだんに用意された資料をさらに活用するには
文字資料として「文書その1」「文書その2」「文書その3」、絵資料として「山梨県甲府勧業場之図」「山梨県勧業製糸場内の写真」「増穂の太鼓堂の写真」など、グラフ資料として「山梨の製糸工場数推移グラフ」が用意され、その資料と生徒とを対話させるためにプリントに工夫が施されていた。文書資料には、その資料の作者の顔写真と吹き出しを用意して、セリフを書き込めるような工夫、「山梨県勧業場之図」には読み取りの視点として「何と書いてあるかな?」「絵に描いてあることを書き出そう」の欄を設ける工夫が見られた。
研究会の中で、もっと資料を活用できるとよいという意見が出た。
文書資料では、「蚕糸業」「京浜への道」というキーワードを見つけるという簡単な課題(一問一答形式)になってしまっていたというアドバイスがあった。では、もう少し難易度を上げるためには具体的にどうしたらよいのかという点については、答えは出ていなかった。
この点について、以下私なりのアイディアを述べるが、的外れだったらお許し願いたい。
まず、文書その1〜その3まで、中学二年生が読むには難しい漢字や言葉が多く出てくる資料である。そのため、授業では小林先生が資料を音読することから課題への取り組みがスタートした。資料への抵抗感を少なくするために難しい漢字にはふりがなをつけて、代表の生徒に音読させるという形で課題に直接取り組ませることができる。
次に、文書1では「○○を広げよう」「○○を盛んにしよう」という形で、セリフ1を考えさせるという課題であった。この課題だと「蚕糸業を広げよう」「蚕糸業を盛んにしよう」という答えが出てくればよいだけになってしまう。そこで「藤村紫朗は、山梨県を繁栄させるために、何に目をつけたか、三つ以上資料から読み取ってみよう」というような複数の答えが出てくる課題を設定するのは、いかがだろうか。たぶん資料からは、@生糸は海外で売れて、利益も多いこと A山梨は生糸の産地だが、蚕糸業をしている人は二割。(もっともうけることができるのにもったいない) B桑畑にできる土地も山梨には多いのに活用していないこと などが導き出されるだろう。山梨県民でない藤村がそういう視点で山梨の産業活性化策を考えることのできる人物であるということにも気づくことができるかもしれない。生きた人物として、藤村を感じ取れることも、社会の学習では大切なことだろう。
同様な視点で、文書その2・文書その3の課題も、答えが複数考えられる課題を設定できるとよい。(具体的な課題については、具体的に提示できなくて申し訳ないが、お許し願いたい)

この授業でもっとも活用したいと思った資料は、絵資料「山梨県甲府勧業場之図」である。授業案では、まず文字に着目させ、どんな文字が書かれているかとらえさせた上で、絵に描かれているものをあげさせるという計画であった。実際の授業では、絵に描かれた建物の特徴を指摘させることに重点が置かれていた。生徒からは、建物の特徴として、洋風・床がレンガ・煙突・ガラス・窓という特徴が出てきた。
研究会の中でも述べたが、まず着目させる文字なのだが、なんという漢字が書いてあるのか読み取らせたのだが、実際の絵の漢字は「山梨甲府勧業場之圖」となっており、県と図は旧字であった。この部分は、もっと簡略化して違う観点で読み取らせることもよいのではないかと考える。具体的には、この部分の漢字を□でマスキングした掲示物を作成してどんな漢字が書いてあるか、全体でまず確認する。そして、旧字の「」「圖」そして普段使わない「之」あたりは、読めないと思われるので、「県」「図」「之」であると生徒に教える。ここで『山梨県の甲府の「勧業場」の図』と確認して、「勧業場」の意味を考えさせるとよい。「工場」ではなく「勧業場」というのは、公的施設として「業(仕事)」を「勧める」場所という意味をもっていると押さえたらよいのではないか。「私的な施設」ではないという意味合いも読み取らせることが可能ではないかと思う。
そして、次に絵を読み取る課題として「この絵から、分かることをできるだけたくさん、挙げなさい」というような投げかけがよいのではないかと、考えた。
・甲府なので富士山が見える。ということは、この建物を見ている位置は、北の方向から南の方向を見ている位置(富士山の見える位置からそう推理したが、間違っていたら修正してください)かもしれない。
・勧業場の前の道路は、人や人力車や馬車がたくさん往来しているので、メインストリートではないか。つまり、物流のしやすい位置に建設されている。
・煙突が15本見え、それぞれ煙がもくもくと出ている。工場として稼動しているということがわかる。
・工場の高さは、松の木の高さくらいなので、十メートルくらいか。工場の幅は、窓が「42くらい」あるので、一つの窓が、1.8メートルとすると、八十メートルはありそう。かなり大きな工場。従業員はそうとう多いだろうと推測できる。
など、他にも読み取れそうなことはあるかもしれない。そのあたりの教材分析が大事だと考える。(もっと読み取れることがあるとよい)

参考資料

worksheet26-27.pdf (application/pdf オブジェクト):  県立博物館での学習シートに「山梨県甲府勧業場之図」を取り上げているものを発見http://www.museum.pref.yamanashi.jp/pdfdata/pdf_worksheet/worksheet26-27.pdf

養蚕(ようさん):
http://www.lib.pref.yamanashi.jp/kosyu/manabu/sangyo/sangyo_5a.html

補助資料として、この工場が西洋風ということを押さえたいのならば、当時の町並みや製糸場の図を提示して、比較させることも可能かもしれない。そうすると、また、読み取る課題は違ってくるのだが。また、工場内の写真も提示されたが、実物資料として「ゆでた繭から糸を取り出す家庭で使われていた機械」などが持ち込めると、その機械が何百台も設置されていると認識できる。写真から、そういう機械が並んでいることまでは、わからない。
もし、そういう実物資料が持ち込めれば、それを最初に見せるということも可能で、どのように使うのか具体的に分かった上で、この写真を見ると、その工場の大きさは実感を持ってとらえられると思う。

授業研究を深めるために何ができるか …近くの中学校との連携を進めることはできないか

下部中の規模だと、授業案をもとにしたプレ授業はできない。そこで、このプランで、他の中学校で実際に授業をやってもらって、生徒の反応などをもとに、授業を練り上げていくという連携ができるとよい。小林先生の構想した授業は、大変優れた内容をもっているので、多くの学校で実際に授業としてやっていただくことがとても大切である。
そうして、社会科の共有教材の宝にしていくべきだと思う。対話の成立する授業を構築するには、やはり、教材の力が必要である。そういう教材を、ストックしていかないと、コンスタントに対話のできる授業を提供できない。
補足 山梨県教育委員会で作成した『ザ・読解力』という中学二年生対象の副読本の教材としても扱える授業提案と資料だと考える。

おわりに
文章資料・絵資料・グラフ資料など豊富な教材資料を見つけ出し、授業化できる小林先生の指導力を改めて確認できた授業提案でした。ありがとうございました。

(記 2009.11.28)


人目のご訪問、ありがとうございます。 カウンタ設置 2009.11.28