0108 「言語事項」関連資料             TOPへ戻る
010801 『日本語の文法』(高橋太郎 他著 ひつじ書房)からの学び    
はじめに
 私は教師になってから、学校文法を積極的には教えてきていなかった。それは、文法の問題が、高校入試に出題される問題数はごくわずかであるが、教える内容は大変多いから(週三時間の中で文法を教える時間的余裕がないから)であるし、もう一つ理由をあげると、文章を読む力を育てることの方に力点をおいていたからである。
 しかし、2005年6月25日26日の教育科学研究会・国語部会に参加して、日本語文法をもう一度学び直す必要性を感じ、このページに日本語の文法を学び直す過程で出てきた疑問点などをまとめつつ、多くの方からのアドバイスもいただきながらそれもあわせて文法指導の参考になるような内容にしていきたいと考えた。
 あわせて、日本語文法を学ぶ会メーリングリストを開設した。『概説・現代日本語文法』『概説・古典日本語文法』(おうふう)『日本語の文法』(ひつじ書房・高橋太郎)などの本を読んで、わからないことなどを教え合うためのメーリングリストであるが、このメーリングリストにもこのページの内容を投稿しつつ、そこでのアドバイスもこのページに掲載していきたいと考えている。


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内容 本の項目・ページ数 公開日
規定語 かざりつけ・きめつけ A『日本語の文法』高橋太郎 ひつじ書房(2005.4.28)P14・15
B「文の部分について(3)」村上三寿『教育国語2・12』むぎ書房(1994.1.20)
2005.8.5
1-1 規定語 かざりつけ・きめつけについてのご助言 bPの内容について、ご助言をいただきましたので、ここで引用紹介させていただきます。(1)喜屋武先生から(2)佐桑先生から 2005.9.07
1-2 規定語の国語教育(主に読み領域)に関わる意義について 岩田道雄氏『考える力を育てる日本語文法』(新日本出版社)より
 「連体修飾」と主観(P69〜71)の紹介
2005.9.07
1-3 形容詞のきめつけを理解させるには 「めいし・どうし・けいようし(4)」村上久美子『教育国語2・21』むぎ書房(1996.4.20)より 2005.9.07
形容詞の連用形のうち副詞と認められるものとそうでないもの A『日本語文法・形態論』(鈴木重幸著 むぎ書房 1972年)P468〜470
B『日本語の文法』(2005年)P151〜152
C『概説・現代日本語文法』(1989年)P131・132
D『日本語文法・形態論』(鈴木重幸著 むぎ書房 1972年)P136〜143
○『日本語の文法』P152の問題1への井上の回答案
○『日本語の文法』P152の問題2への井上の回答案
2005.9.07
3-1 動詞が中止形になったとき ○『日本語の文法』P128…問題6への井上の回答案
○『日本語の文法』P130…問題7への井上の回答案
用例報告のお願い(その1)
A 後続動作の原因用法の中止形  B 後続動作の場所用法の中止形
C 後続動作のようす用法の中止形 D 後続述語の前提用法の中止形
用例報告のお願い(その2)
A 後続動詞を具体化して内容を示す中止形用法
B 後続動詞を抽象して解説する中止形用法
用例報告のお願い(その3)
A 述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・手段ようす
B 述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・具体的な側面からの内容づけ
C 述語の表す状態が成り立つための基準を表す補語用法の中止形
D 主語と述語で表す事柄を、話し手の立場から注釈する陣述語用法の中止形
2005.9.13

bP 規定語について                    
A 『日本語の文法』(ひつじ書房・高橋太郎)P14の規定語の定義は

 規定語は、ものをあらわす文の部分にかかっていって、そのものがどんな特徴をもつかということでかざりつけながら(特徴の付与)、そのものがどのものであるかをきめつける(ものの限定)文の部分である。
 ・ちいさな すもうとりが おおきな すもうとりを なげとばした。
 ・なみさんが あかいかおをした ちぢれげの 男の子を つれてきた。
 規定語には、きめつけのはたらきだけをもつものや、かざりつけのはたらきだけをもつものがある。きめつけの規定語は、特徴を付与することなく、規定される文の部分のあらわすものを限定し、かざりつけの規定語は、そのもののもつ特徴を付与するだけで、限定のはたらきをもたない。

 上の定義からすると、規定語は、基本的には、かざりつけのはたきときめつけのはたらきの二つのはたらきをもつ連体修飾語である。時に、かざりつけのはたらきだけの規定語と、きめつけだけの規定語がある。
 さて、P14には、問題15として、次の5文を、きめつけの規定語とかざりつけの規定語に分けて、理由をいえという問題がある。

1 その くつを とって ください。
2 上述の 文が それを あらわしている。
3 ちいさな のみが おおきな すもうとりを なやました。
4 かねくらさんの うちには おおきな 門が あった。
5 あかんぼうは ふとった おかあさんに だかれて いた。 

1は、きめつけ。「その」という指示語で、とってほしいくつを限定しているから。
2は、きめつけ。「上述の」という指示語で、どの文か限定しているから。
3は、かざりつけ。この文では、主語の「のみが」と、なやます対象の「すもうとり」が、それぞれ複数いるわけではないと思う。のみの特徴の「小ささ」と、すもうとりの特徴の「大きさ」を「ちいさな」「おおきな」という規定語が強調していて、おおきさの違うのみやすもうとりが複数いて、「大きいほうののみでなく小さいのみが」「小さいほうのすもうとりではなくおおきなすもうとりを」なやましたというわけではない。
4は、かざりつけ。この文では、かねくらさんのうちに複数大きな門があったとしても、「おおきな門が」あれば、問題はないから。
5は、かざりつけ。この文では、普通は「おかあさん」は「あかんぼう」の母親であるだろうし、あかんぼうをおかあさんがだいている状況であれば、どのおかあさんか限定する必要はないから。ただ、おかあさんの体格の特徴として「ふとった」という規定語が用いられている。

B 「文の部分について(3)」村上三寿『教育国語2・12』では、連体修飾語の用法の二つ(限定とかざりつけ)を考えるために、代表例をあげている。限定の用法は、高橋氏の「きめつけの規定語」、かざりつけの用法は、高橋氏の「かざりつけの規定語」を指しているとして、以下の疑問点を述べる。

まず、村上氏は、連体修飾語は、限定とかざりつけの共存する用法を認めていないのではないかという疑問がある。(この疑問については、村上氏にたずねないとわからない)
次に、私がここで疑問点をなげかけてみたいのは、村上氏が「限定用法」としてあげている例文の中で、「かざりつけの用法」として考えた方がよいのではないかと思う例文がある点である。
村上氏があげている限定用法の例は、次のとおりである。

1 私は 白い 本を 一冊 買った。
2 あそこに 赤い 車が 一台 とまっている。
3 妹は 大きな パンを 食べている。
4 物置から 四角い テーブルを 持ってきてくれ。
追加例
5 ぼくの 家では 夕はんは まるい テーブルの 方で 食べます。
6 戸だなから 大きい お皿を もっておいで!

1は、かざりつけ。なぜなら、「私は 本を 一冊 買った。」という文でも、普通は、意味は伝わる。「白い 本を」とすることで、本の色の特徴を説明していると考えられる。文脈の中で、例えば「本屋さんに何色かの本があって、どの本を買ったのですか」という問いに対する答えが、「私は 白い 本を 一冊 買った。」であるとすると、限定の用法である。限定の用法かどうか考える例文としては、どういう状況の中での発話かということが重要である。
2は、かざりつけ。この文からでは、「あそこに一台車がとまっている」という状況のように思われる。状況として、いろいろな色の車が駐車場にとまっていて、「あなたの車はどの車ですか。」とたずねられて、「あそこの 赤い 車が、私の車です。」と答えたとすると、「あそこの 赤い」は、限定用法である。
3も、かざりつけ。妹の食べているパンの大きさを「大きな」という規定語が説明していると考えられる。
4は、限定用法。物置には、いろいろなテーブルが置いてある状況が読みとれ、いろいろなテーブルの中から「四角い テーブルを」持ってきてほしいという命令である。
追加例の5、6も、限定用法である。限定用法としては、被修飾語の名詞(具体物)が、状況の中でいろいろある中で、その中の一つ(複数の場合もある)を指定するときの用法であるため、状況を具体的に設定しておいた中で、例文を考える必要がある。

最後に、私自身の規定語についての最大の疑問は、規定語の「きめつけ」「かざりつけ」の区別が、なぜ日本語教育の中で重要なのか、よくわからない点である。ご意見をいただければ、幸いである。
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bP−1
bPの内容について、アドバイスをいただきたいと、何人かの方にメールでお願いしたところ、お三人の先生からお返事をいただきました。その中で、お二方のメールをここに引用紹介させていただきます。なお、喜屋武先生と佐桑先生のメールの引用紹介をお許しいただき、感謝です。(井上秀喜)
(1)喜屋武先生からのご助言

質問規定限定修飾機能勉強中たえりい以下二点指摘

先生問題15つい検討問題ないおも先生指摘とお規定限定修飾機能場面依存側面があそう

国語教育意義つい文法教育にお事項@文法教育体系にお意義A言語指導語彙指導にお意義B指導にお意義領域構造的検討必要もい今回ついがえ高橋太郎先生連体動詞句りあい序説1979言語研究書房所収1994動詞研究 動詞動詞発展消失書房 紹介たいとおもい

 特徴付与というにおい引用者限定がう名詞区別連体成分特徴特徴区別であいいかえたえであたいたえであ高橋1994326

(2)佐桑先生からのご助言

規定語についてですが・・・・。
充分、吟味ができていないので、曖昧なことしか言えないことをまずはお断りした上で。

>最大の疑問は、規定語の「きめつけ」「かざりつけ」の区別が、なぜ日本語教育の中で重要なのか、よくわからない点である。

これは、ものの本質にかかわることだろうと思います。
また、とらえ方によるものだろうと。

きめつけは、指示語に代表されるように、あるものを他のものから区別することにあるだろうと思います。
そうしながら、現実のなかで、どんどん限定されていく。
クローズアップしていく役割があるだろうと思います。

一方、かざりつけのほうは、そのものがもつ特徴・属性を引きだして、かざられているものを詳しくしていきます。
属性は、ものの側面の集まりですから、かざりつけが多くなれば、そのものを詳しく表現することになるはずです。
そうやって、あるものを豊かに表現していきます。

形容詞の多くは、こうした役割の両方を備えているので、文脈をちゃんと捉えないと、どちらになるかがわからないでしょう。

これは、読みや作文のなかで活かされるなかみだと思います。

といっても、僕自身、以上のようなことをほとんど意識はしてきませんでしたが、これをきっかけに、意識してみようと思います。
読みが変わってくるように思います。

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bP−2 規定語の国語教育(主に読み領域)に関わる意義について  
 規定語(連体修飾語)を扱う上での注意する点(どんなことに気をつける必要があるのか)を、岩田道雄氏が『考える力を育てる日本語文法』(新日本出版社)の中で触れている。一部を引用紹介する。
「連体修飾」と主観  (P69〜71)

 教科書の文法では、修飾語は連体修飾語と連用修飾語の二つに分かれています。そして、両方とも「被修飾語を詳しくする」と、働きを同じにしています。しかし、連用修飾語は、状況の違いによって被修飾語を限定するのですが、「連体修飾」の場合は、語り手の判断によって規定するという特徴があります。語り手の視点によって同じ対象の見方が違ってくるのです。
 たとえば次のように。

 赤い 花 (色)
 バラの 花 (名前)
 甘い 香りの する 花 (匂い) 連文節

 すると、読み手のイメージも違ってきます。読み手は、「連体修飾」に初めて出会った時、対象が、語り手にどういう視点で見られているのか確認をした方がよいでしょう。それが特に重要なのは、主観性の強い感情的な修飾です。
 たとえば、一人の子どもについても、うわさ話では、いろいろな評価が出てきます。

 
 あの子は 元気な 子だね。
 いいや、なかなか  生意気な 子だよ。
 いいえ、 明るい いい 子ですよ。
 そう、とても うるさい 子よ。

 これらの言葉を一つずつ別の人が聞いたとしたら、それによって対象(ここでは「あの子」)に対する評価が全く違ってきてしまいます。ですから、説明文などでは、対象の本質にかかわるような「連体修飾」の部分は特に問題です。
 次のような「連体修飾」は主観的で、これだけでは様子を思い浮かべにくいものだといえるでしょう。

 鋭い厳しい 意見
 個人的な感情的な 意見
 狭苦しいはずれた 意見
 昔から遊ぶことが好きな 日本人
 残酷で極悪非道な 日本人の支配
 平和で民主的な文化の高い アメリカ

 しかも「連体修飾」に込められた判断は、聞き手(読み手)には、自明のものとして、検証なしに、当たり前として受け取られてしまう場合が多いから、ある意味危険なのです。悪口にしても、誉め言葉にしても、初めて聞いたときは、それが本当だと思ってしまうことが少なくありません。ですから、「連体修飾」に出会った時は、それが対象の本質を表わしているのか、単なる話し手の思考・判断なのか、また、その思考・判断が正しいのかどうかを、吟味してみなければならないのです。特に情報言語の場合は、そうした吟味が必要です。

岩田氏は「連体修飾語」が出てきたときに、読み手が確認すべき点として2点を指摘している。
(1)読み手は、「連体修飾」に初めて出会った時、対象が、語り手にどういう視点で見られているのか確認をした方がよい。
(2)主観性が強い連体修飾語の場合はさらに「それが対象の本質を表わしているのか、単なる話し手の思考・判断なのか、また、その思考・判断が正しいのかどうかを、吟味してみなければならない」
岩田氏のこの指摘こそ、規定語の国語教育(主に読み領域)に関わる一つの重要な意義であると私は思う。

疑問1「それが対象の本質を表わしているのか、単なる話し手の思考・判断なのか、また、その思考・判断が正しいのかどうかを、吟味」するとは、どのように具体的に行うのか。この部分で例としてあげられている「 鋭い厳しい 意見  個人的な感情的な 意見  狭苦しいはずれた 意見
昔から遊ぶことが好きな 日本人  残酷で極悪非道な 日本人の支配  平和で民主的な文化の高い アメリカ」を吟味するにはどうしたらよいのか。

疑問2「連用修飾語の状況の違いによって被修飾語を限定する」とは、具体的にはどういうことか?
さて、岩田氏は、「連用修飾語」と「連体修飾語」の違いについて引用部分の冒頭で次のように述べている。
「教科書の文法では、修飾語は連体修飾語と連用修飾語の二つに分かれています。そして、両方とも「被修飾語を詳しくする」と、働きを同じにしています。しかし、連用修飾語は、状況の違いによって被修飾語を限定するのですが、「連体修飾」の場合は、語り手の判断によって規定するという特徴があります。語り手の視点によって同じ対象の見方が違ってくるのです。」

ここで、よくわからないのは、「連用修飾語は、状況の違いによって被修飾語を限定する」というところである。連体修飾語は、主観的な部分が多いが、連用修飾語は、「状況の違いによって」というしばりがあるので、客観的な限定になるということかもしれないが、具体的には今ひとつよくわからない。もし、わかる方がいましたら、補足説明をお願いしたい。  アドバイスを送る

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bP−3 形容詞のきめつけを理解させるには
 規定語のきめつけ・かざりつけの二つの用法を区別する必要性について私自身の疑問を「bP 規定語について」で述べた。
 そんな問題意識をもっていたところ、村上久美子氏の「めいし・どうし・けいようし(4)小学一年生の文法の授業」P71・72に「形容詞が文の中でどんなはたらきをするのかを考えさせる授業」が紹介されていた。
 その一部を紹介しながら、きめつけの用法の国語教育の上での意義をまとめてみたい。

「では、形容詞がないと、文がどうなるか、みてみましょう。○○くん、そこから、えんぴつを一本、もってきてください。」
 えんぴつを もってきてください。
―― (持ってくる)
「あっ、それじゃなく」
―― (とりかえてくる)
「あっ、それじゃなく」
―― (困ったようす)
 (友達が応援する)
―― いろを聞いてきて。
―― どんな色か聞いてきて。
―― どのえんぴつのことか、わからない。
―― どのえんぴつなのか、はっきりわからない。
「では、形容詞をいれて説明します。」
 (あおい)えんぴつを もってきてください。
―― (あおいえんぴつをもってくる)
「形容詞をつけると、どうですか?」
――どのえんぴつか、よくわかる。
――どのえんぴつのことか、はっきりしてくる。
「形容詞は、そのものがどのものなかの、説明して、わかりやすくしているのですね。」

 この村上氏の「実際の場面で、鉛筆を持ってこさせることを通して、きめつけの用法を考えさせる授業」から、「きめつけの用法」の必要性を考えてみる。
 もし「えんぴつを もってきてください。」というお願いをする人が、どの鉛筆でもよいのなら、この「えんぴつを もってきてください。」という表現でよい。もし、どの色の鉛筆か限定する必要があるのなら「○○色の(○○い)えんぴつを もってきてください。」と表現する必要があるだろう。とすると、表現者としては「限定する言い方」を適切に使うことのできる表現力が必要である。
 また、お願いをされた人は、「どの鉛筆でもいいのか」それとも「どの鉛筆でなければならないのか」依頼者の意向を把握することが必要であろう。
 とすると、「きめつけの用法」は、実際の場面で「どのものを指しているのか」的確に相手に伝えたり、相手に確認したりすることのできる力として重要性があるのではないかと考える。(2005.8.16記) 

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bQ 形容詞の連用形のうち副詞と認められるものとそうでないもの
 ここで問題としているのは、形容詞(イ形容詞・ナ形容詞)が連用修飾語となった場合、どういう場合は副詞と認定し、どういう場合は形容詞の中止めと認定するのかという点である。この点については、ゆれが見られる。
A 『日本語文法・形態論』(鈴木重幸著 むぎ書房 1972年)P468〜470

 ただし、第一形容詞の第一なかどめとみとめられるもの以外でも、形容詞の語幹に「く」や「に」のついたものすべての用法を副詞の用法とみとめてよいかどうかについては、なお検討を要する。
 (i) 変化をあらわす動詞にかかって、その主体や対象の変化の結果の状態をあらわすもの。
      かべを しろく ぬる。
      あたりは 雪で まっしろに かわった。
      ごはんを やわらかく たく。
    この用法にたつものは、直接的には動詞を限定しているので、副詞とみてよいだろう。
    なお、この用法は、名詞のに格にもみられる。
      かべを みどり色に ぬる。
      父は 太郎を 一人まえの 職人に そだてあげた。
 (ii) 感情・評価・判断をあらわす動詞にかかって、その内容をあらわすもの。
      ……を 残念に おもう
      ……を こいしく おもう
      ……を あさましく 感じる
      ……を こころぼそく 感じられる
     このばあい、つぎの動詞とのくみあわせ全体が合成述語(連語論的には合成かざられ)になっているとみとめられる(奥田靖雄「日本語文法・連語論(6)」『教育国語23』参照)。この形は、形容詞の述語になる形にくっつきの「と」をつけた形式におきかえられる。
      ……を 残念だと おもう
      ……を こいしいと おもう
      ……を あさましいと 感じる
      ……を こころぼそいと 感じられる
     この用法にたつ「――く」「――に」は、形容詞とみた方がよいだろう。
 (iii) 形式的な意味をもつ動詞とくみあわさって、合成述語の要素となる。
     ……を しろく する
     ……が しろく なる
     ……が しろく みえる
     ……を まっかに する
     ……が まっかに なる
     ……が まっかに みえる
      このばあいも、(ii)と同様、副詞の用法とみるよりも、形容詞の用法とみた方がよいだろう。
    (注)(ii)(iii)の「――く」「――に」をどう位置づけるかについては、保留とせざるをえない。第一形容詞のばあいは、これらの「――く」を第一なかどめの用法とみることができるが、第二形容詞の「――に」はそうみることができない。古代語では、「――に」がなかどめ的にもちいられたばあいがある。それを根拠に、これを旧第一なかどめの形式的な用法とみることもできないこともないが。

B 「〜く」「〜に」は副詞か、形容詞か 『日本語の文法』(2005年)P151〜152

 これまでの「国文法」で形容詞、形容動詞の連用形とみとめられていたもののうち、動詞(あるいは形容詞)の意味を限定し、文のなかで修飾語や状況語としてはたらくものは、ここでは副詞(形容詞派生の副詞)とみとめた。このようにした理由は、問題の連用形以外の形容詞のかたちは、名詞のさししめすものごとの属性(性質や状態)をさししめし、文のなかでは規定語や述語としてはたらくが、問題の連用形は、そうではなく、動詞(形容詞)をかざり、これらのさししめす属性の属性(ようすや程度など)をさししめし、文のなかで修飾語としてはたらくという点で、質的な違いがあるからである。そして、問題の連用形のこうした性格と同様の性格をもつ一群の単語が、べつに副詞として存在しているのだから、そのグループになかまいりさせたほうが合理的だとかんがえられるからである。
 ・太郎が おかしを はやく たべた。
 ・太郎は 元気に うたを うたった。

 なお、おなじようなかたちをしていても、つぎのように、ものの属性をあらわしているものは形容詞の中止形である。
 @先行句節の述語になっているもの
 ・ウサギは 耳が ながく、目が あかい。
 ・この カバンは じょうぶで やすい。
 Aコピュラとくみあわさって、述語になるもの
 ・この スイカは 大きくは あるが、 うまく ない。
 Bあとにつづく動詞のあらわす言語活動や心理活動の内容になったり、変化の結果になっているもの
 ・ひとの ことを そんなに わるく いう ものでは ない。
 ・そらが きれいに みえる。
 ・日が だんだん ながく なる。
 ・よい 政治は ひとびとを ゆたかに する。
 形容詞の中止形は、副詞とちがって、原則としてみとめかたのカテゴリーがある(うちけしにすることができる)。

C 第4章 副詞 『概説・現代日本語文法』(1989年)P131・132

 副詞は、ようすや程度などをあらわす品詞で、文のなかでは、よく述語を修飾するために使用される。
 副詞は、第1形容詞を「――く」にすることによっても、また、第2形容詞を「――に」にすることによっても、大量につくることができる。このような形容詞からつくられる副詞は、特に、形容詞の副詞化とよぶことにする。
 副詞の基本的な用法をしめすと、つぎのようになる。
 (1) 動作・状態などのようすをあらわす。
      ストーブの 炎が 赤く 燃えている。(←赤い)
      西の 空に 一番星が 美しく 輝きだした。(←美しい)
      夕方まで 静かに 勉強していた。(←静かな)
      頂上は きのうの 雪で まっ白に 輝いていた。(←まっ白な)
      松林が 風で ざわざわ(と) 鳴っている。
      富士山が 堂々と そびえている。
 (2) 変化を意味する動詞とくみあわせて、結果のようすをあらわす。(「なる」「する」などとのくみあわせがおおくみられる。)
      壁を ペンキで 赤く ぬった。(←赤い)
      強い 酒を 飲むと、顔も ほんのり 赤く なる。(←赤い)
      みんなで ショーウィンドの ガラスを きれいに みがいた。(←きれいな)
      先生が きたので、 さわいでいた 生徒も 静かに した。(←静かな)
      子どもが 寝静まって 部屋のなかも 静かに なる。(←静かな)
      ひげを はやせば、 見かけだけは 堂々と する。
 (3) 動作・状態・性質などの程度をあらわす。
      庭の 松の木の こずえが 大きく ゆれている。(←大きい)
      わたしたちの チームが かるく 勝った。(←かるい)
      先生との 約束を きれいに 忘れてしまった。(←きれいな)
      この教室は ばかに せまい。(←ばかな)
      パンを 少し ください。
      りんごも たくさん かごのなかに あります。
 (4) かんがえたり感じたりした内容をあらわす。
      犯人を にくらしく 思う。(←にくらしい)
      先生の 好意には うれしく 感じている。(←うれしい)
      自分の 責任を 大切に 考えなさい。(←大切な)
      ぼくも 大川さんの 失敗は 気の毒に おもいます。(←気の毒な)
 (5) 時間的な量・程度をあらわす。
      弟は よくしばしばしきりに) 笑う。(←よい)
      秋も 深まり、 やがて 雪が 降りだします。
      先生は すぐ ここに いらっしゃいます。 

簡単にまとめてみると

A『日本語文法・形態論』 B『日本語の文法』 C『概説・現代日本語文法』
かべを しろく ぬる。 副詞 副詞
……を 残念に おもう 形容詞 形容詞 副詞
……が しろく なる 形容詞 形容詞 副詞

Cのように副詞の定義を広げると、A・Bのように「副詞か形容詞か」の判別をどうするか保留する必要はなくなる。

しかし、形容詞か副詞かという境界線上の用例は、高橋氏の指摘を大事にすると、「形容詞の中止形は、副詞とちがって、原則としてみとめかたのカテゴリーがある(うちけしにすることができる)」という観点から、違いがあるようである。

ここでの疑問は、「副詞か形容詞か」の判別が、どうして難しいのかということである。あるいは、なぜ、ゆれがあるのかということである。
また、現時点での日本語文法学会でも、ゆれているのか、それとも、統一見解があるのか、ということである。

D 『日本語文法・形態論』(鈴木重幸著 むぎ書房 1972年)P136〜143から必要な部分を抜粋

 §12 ふたつの単語でなりたつ文の部分

 ふたつの単語がくみあわさって、ひとつの文の部分になることがあります。

 いくよの かおは ぽっと あかく なった
 太郎は ふなのりに なった
 いくよは 顔を ぽっと あかく した
 父は 太郎を ふなのりに した

 単語は、単独で文の部分になることができるのが原則であるが、単語のなかには、語い的な意味が形式化して、他の単語の文法的な意味を補足するためにもちいられるものがある(補助的な単語)。こうした単語は、実質的な語い的意味をもつ単語に従属してもちいられ、二つの単語で一つの文の部分になる。
 第5例「あかく なった」、第6例「ふなのりに なった」の「なる」は、変化だけを抽象的にあらわす動詞(あるいはむすび)で、変化の結果を別の単語でおぎなわないと、意味が不完全なものである。これに対応する他動詞「する」のばあいも同様である 

この部分から考えると、「あかくなった」「ふなのりになった」「あかくした」「ふなのりにした」が、述部となるという指摘である。
ということは、例えば「あかく」と「なった」との関係は、「連用修飾語」と「述語」という見方はしないということである。

ここでまた疑問が生まれる。例えば「私は 本を 買った。」というばあい、「買った」という述語が必要とする「対象語(本を)」を補わなければ文としては不完全である。なぜ、「なった」という述語が必要とする「どうなったか(あかく)」を「連用修飾語」とか、「どうなったか(ふなのりに)」を「対象語」ととらえては問題があるのだろうか。

また、この節(bQ 形容詞の連用形のうち副詞と認められるものとそうでないもの)で問題にしている形容詞なのか副詞なのかにも関わる問題である。

○『日本語の文法』P152の問題1

 つぎの文のふたつの「はやく」を、それぞれ、うちけしにできるかどうか、検討せよ。
 ・はやく スピードを はやく しろ。

井上の回答案
できないもの
 ・はやく スピードを はやく しろ。   × はやく なく スピードを はやく しろ。
 [スピードを はやく する]という動作を「はやく(すみやかに・時間をあけずに)」行え という意味。
できるもの
 ・はやく スピードを はやく しろ。   ○ はやく スピードを はやく なく しろ。
 [スピードを はやく する]…今のスピードより速くする・今の速度をあげる という意味。
 [スピードを はやく なく する]…今のスピードより遅くする・今の速度を落す という意味。
 しろ…する の 命令形。
打ち消しにできない はやく は 副詞。 打ち消しにもできる はやく は 形容詞の中止形。

○『日本語の文法』P152の問題2

 つぎの各対のちがいについてかんがえよ。
 @ア) この めがねを かけると、 そらが とても きれいに みえる。
  イ) 約束の ことを きれいに わすれて いた。
 Aア) 地図の 鉄道線路は 縮尺よりも おおきく かいて ある。
  イ) こんどの 市長は 市政を おおきく かえた。

井上の回答案

@ア) そらのようすが 「きれい」(美しい)に みえる。…主語の様子を、「きれいに みえる」と説明している。「きれい」という単語の本来の意味を有している。みとめかた「きれいで なく」という言い方は、可能。
 イ) 約束の ことを きれいに(すっかり) わすれて いた。…述語の「わすれて いた」様子・程度を、「きれいに」と説明している。「きれい」という単語の派生的な意味で使われていて、「きれいに」の語形の時にあらわれる意味。みとめかた「きれいで なく」という言い方は、ない。
広辞苑「濁り・汚れをとどめないさま。Cあとに余計なものを残さないさま。すっきり。「――に程なくもとの木男になりぬ。」「紛争を――に解決する」「――に忘れた」
Aア) 「地図の 鉄道線路」の書かれている大きさが、縮尺より大きい。「大きい」という単語の本来の意味を有している。みとめかた「おおきく なく」という言い方は、可能。
 イ) 「市政を かえた」程度・規模を、「おおきく」と説明している。市政の変化の度合いを「おおきく」と説明している。みとめかた「おおきく なく」という言い方は、可能。

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bR−1  動詞が中止形になったとき

『日本語の文法』P128…問題6  次の各文の、ふたつの下線部の関係は、継起関係か、並立関係か。

ア) きのう わたしは 6時に おきて、学校へ いった
イ) きのう わたしは 6時に おきて、かれは 5時に おきた
ウ) のはらには おがわが ながれ、おがわには アヒルが およいで いた
エ) 右手で はしを もち、左手で ちゃわんを もった
オ) 右手で 左手で たたいて、左手で 右手を たたいた

井上の回答案
ア) 継起関係 …6時におきた後、学校へ行った。
イ) 並立関係 …私の行動(6時におきた)とかれの行動(5時におきた)を並べている。
ウ) 並立関係 …おがわの様子(流れていた)とアヒルの様子(泳いでいた)を並べている。
エ) 並立関係 …右手にもつもの(はし)と左手にもつもの(ちゃわん)を並べている。
オ) 継起関係 …右手で左手をたたいた後、左手で右手をたたいた。

[参考資料…A]…『日本語の文法』P128 [3.1. 述語の性格を失わない中止形のいろいろ]
継起関係の用法と並立関係の用法の出現頻度のちがいについて『日本語の文法』P128では次のように述べている。

先行句節と後続句節の関係には、継起関係と並立関係とがある。
主語が一つの場合は、継起関係が多く、並立関係は少ない。
・あさ おきて、顔を 洗った。(井上注…継起関係)
・右手を 上に 上げて、左手を 前に 出せ。(井上注…並立関係)
主語が異なる場合は、継起関係の用法とともに並立関係の用法もかなりある。
・その 年は、夏に 子どもが 生まれて、そう こう する うちに、じいさんが 死んだ。(井上注…継起関係)
・兄貴が 先生の ところへ カネを 買いに 走り、俺は 隣の オヤジと、ぼんさんを 探しに 行った。(井上注…並立関係)
      

[参考資料…B]述語性を保ちながら、従属成分しめしの機能をあわせもつ中止形の例

『日本語の文法』P129 [3.1. 述語の性格を失わない中止形のいろいろ]

 先行句節(A)に属する中止形にムード・テンスの形式がなく、後続句節(B)に属する文末述語がムード・テンスの形式をもつという、この文構造は、陳述の中心をBにもっていくことになり、その結果としてAが従属性をおびる。
 次の3例の中止形は、いずれも述語性をたもちながら、従属成分しめしの機能をあわせもっている。関係的な意味についていえば、先行動作のうえに、それぞれBの動作の原因、場所、ようすをのせている。

・雨に 濡れて、風邪を ひいた。(=ヌレタ。ソシテ、ソノタメニ)(井上注…後続動作の原因用法の中止形)
・木に 登って、柿を 取ろう。(=ノボロウ。ソシテ、ソコデ)(井上注…後続動作の場所用法の中止形)
・げたを ぬいで、うえに 上がれ。(=ヌゲ。ソシテ、ソノスガタデ)(井上注…後続動作のようす用法の中止形)

 また次の例では、AとBが同時並列関係をたもちながら、AがBの前提となっている。

・カニには はさみが 2つ あって、一方が 他方より 大きい。(=アル。ソシテ、ソノウチ)(井上注…後続述語の前提用法の中止形)

 これらは、文の構造が中止形に従属的な関係を合わせもたせているのだといってもよいだろう。

教科書の用例の収集のお願い
中止形の用法のなかで、参考資料Bに掲載した次の四つの中止形の用例を教科書教材の中から見つけ出すことによって、うえの用法を授業の中で取り上げて指導をしやすくなると考える。そこで、皆さんが授業の中でこれらの用法と認められる教科書の用例が見つかったら、井上までメールをいただきたい。このホームページ上で、皆さんからいただいた用例を掲載させていただきたいと考えている。

報告いただきたい用法
A 後続動作の原因用法の中止形
B 後続動作の場所用法の中止形
C 後続動作のようす用法の中止形
D 後続述語の前提用法の中止形

後続動作の場所用法の中止形の用例  サクラソウとトラマルハナバチ 鷲谷いづみ(光村小5)
少しして、最初に産んだ子どもが一人前の働きバチに育つと、女王バチは巣の中にこもって、たまごを産むことと幼虫を育てることに集中します。
サクラソウの花の形に合う長い舌をもつ虫は、次もサクラソウの花をさがしてみつをすうでしょう。
女王バチは、サクラソウの花を次々におとずれ、その長い舌でみつをすい、えさを集めます。
ですから、働きバチたちは初夏から秋にかけては、ほかのいろいろな花をおとずれてみつや花粉を集めることになります。

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『日本語の文法』P129…問題7 次の下線部の修飾語を、あとの動詞が示すことを具体化して内容を示しているものと、抽象して解説しているものに分けよ。

ア) まゆみは お手玉を して 遊んでいる。
イ) きつねは ばけて むすめに なりました。
ウ) まさおくんは うそを ついて、「みっちゃんは いま いないよ。」と いいました。
エ) まさおさんは 「みっちゃんは いま いないよ。」と いって、わたしを だましました。
オ) けんちゃんは 50秒 もぐって、クラスの 記録を 更新した。

井上の回答案
ア) 具体化して内容を示す…「遊んでいる」の具体化が「お手玉をして」
イ) 抽象して解説…「むすめに なりました」を抽象して解説しているのは「ばけて」
ウ) 抽象して解説…「「みっちゃんは いま いないよ。」と いいました。」を抽象して解説しているのは「うそをついて」
エ) 具体化して内容を示す…「だましました」の具体化が、「「みっちゃんは いま いないよ。」と いって」
オ) 具体化して内容を示す…「クラスの 記録を 更新した。」の具体化が、「50秒もぐって」

教科書の用例の収集のお願い 
報告いただきたい用法
A 後続動詞を具体化して内容を示す中止形用法
B 後続動詞を抽象して解説する中止形用法
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[参考資料…C]中止形の動詞が述語性をうしなうとき

『日本語の文法』P129・130 [3.2.中止形の動詞が述語性をうしなうとき]

 ところが、次のようになると、その中止形は、次第に文末述語にムード・テンス的な意味をかりているといえなくなって、文の述語であることをやめる。そして、先行句節全体がひとかたまりになって、従属句節にさまがわりすることになる。

・トラックを 運転して 北九州に 行った。(井上注…述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・手段ようす)
・まゆみは お手玉を して 遊んで いる。(井上注…述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・具体的な側面からの内容づけ)
・大家さんは、そこを 右に まがって 3軒目です。(井上注…述語の表す状態が成り立つための基準を表す補語用法の中止形)
正直に いって、これは 失敗でした。(井上注…主語と述語で表す事柄を、話し手の立場から注釈する陣述語用法の中止形)

 はじめの2例は、述語の表す動作のようすを示す修飾語であり、次の例は、述語の表す状態が成り立つための基準を表す補語である。また、最後の例は、主語と述語で表す事柄を、話し手の立場から注釈する陣述語である。さらに、はじめの2例を比べると、第1例は述語の表す動作の手段・ようすを表しているのに対して、第2例は、一つの動作を具体的な側面から内容づけしている。ここに挙げた例は、一部にすぎないが、中止形によって作られる従属句には、さまざまな機能をもつものがあるのである。

教科書の用例の収集のお願い 
報告いただきたい用法 …それぞれの項目をクリックするとメーラーが開きます
A 述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・手段ようす
B 述語の表す動作のようすを示す修飾語用法の中止形・具体的な側面からの内容づけ
C 述語の表す状態が成り立つための基準を表す補語用法の中止形
D 主語と述語で表す事柄を、話し手の立場から注釈する陣述語用法の中止形

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