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010102 読み研通信原稿2「クジラたちの音の世界 」(光村・中1教材)      TOPへ戻る

教材分析《柱の文に着目した構造読み》クジラたちの音の世界(光村図書・中一・中島将行)
                                                                                 井上秀喜(山梨・増穂中学校)

はじめに

  今回の原稿は、柱の文に着目した構造読み、柱の文を生徒にどのように理解させたらよいか私の作った学習プリントの紹介、ポイント発問例の三つが中心になります。

「クジラたちの音の世界」の構造読み

  文種は、説明文。柱の文が、はっきりとした入門期にはふさわしい書かれ方の説明文である。構造読みには、A案とB案の二つが考えられる。

〔構造読み A案〕

前文なし。
本文Tは、1段落から9段落まで。
本文Uは、10段落から12段落まで。
後文なし。

〔構造読み  A案の理由〕

   本文Tの柱の段落は、2段落。「@海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝え合ったりしているのだろう。Aクジラを例に調べてみよう。」@文は、本文Tを支配する《問題提示文T》。A文は、「海で暮らす動物たち」の中から、この説明文ではクジラを例にするという《説明対象指定予告文》になっている。
 続く3段落から9段落までが、2段落の問題提示に対応する答えにあたる。
5段落が、クジラたちの情報を受信・発信する手段が、クジラの発する二種類の音であると、明快に答えを述べる。5段落「@クジラは高い音から低い音まで、さまざまな種類の音を出すことができる。Aしかも、非常に短い音と、比較的低い、長く続く音の二種類を、目的に応じて使い分けているのである。」
5段落A文の「非常に短い音」の役割・目的について詳しく説明しているのが、6・7段落。「クリック音」と呼ばれ、「周りの様子を知るための音」であると説明している。
5段落A文の「比較的低い、長く続く音」の役割・目的について詳しく説明しているのが、8・9段落。「ホイッスル」と呼ばれ、「仲間どうしのコミュニケーションに用いられる」と、8段落で述べ、9段落では、「ザトウクジラのホイッスル音の『歌』」を具体例として提示する。
   本文Uの柱の段落は、10段落。「@それでは、クジラたちは、なぜこのように巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報をたがいに伝え合ったりするようになったのかを考えてみよう。」@文が、本文Uを支配する《問題提示文U》であり、ここからの新しい論展開の方向性を明示する《予告文》にもなっている。
続く11・12段落が、10段落の問題提示に対応する答えにあたる。
11段落は、「海の中では目で見る情報は頼りないこと」を述べ、12段落は、「音は明るさに影響されないこと、音が陸上の五倍早さで伝わること」を理由に「海の中での情報の受信や発信のうってつけの手段」であると結論づけている。
   次に、ここまでの分析で、取り上げていない1段落の役割について述べる。
1段落「@動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の回りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している。A特に、群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要なことである。」
1段落は、本文Tを支配する2段落の《問題提示文T》を引き出す役割をしていると、私はとらえる。大きく「動物たちは」と書き出し、動物たちは情報収集交換の方法をそれぞれ持っていて、その方法は重要であると指摘する《概説・一般論》にあたる。
その1段落を受けて、本文Tは、「海で暮らす動物」の中の「クジラ」に限定して論を展開している。《クジラ限定の論展開》。本文Uも、その流れに乗って「クジラが音を利用するメリット」を説明している。
前文として、本文T・Uを包括するかどうかという視点で検討すると、1段落には、本文T・Uを包括する抽象度の高い内容が書かれている。しかし、本文T・Uで取り上げているのは、海で暮らす動物、クジラである。
(1段落を前文ととらえない理由を整理できていないが、みなさんのご意見をいただく材料として分析を提示しました。)

補足〔構造読み B案〕

前文 1・2段落
本文 3段落から9段落まで
後文 10段落から12段落まで

〔構造読み  B案の理由〕

   前文は《本文を支配する問題提示》で、後文は《まとめ》《特に付け加えたいこと》というとらえもできることを付け加えておく。特に問題提示Uは、「巧みに音を使って、周りの状況をとらえたり、情報をたがいに伝え合ったり」と本文Tのまとめをしつつ、新しい問題提示をしているユニークなものである。

説明的文章の論理をとらえるために

   次に文と文の論理関係を教えるための《生徒向けの学習プリント》の一部を紹介する。

パターンA @が問題提示で柱、A・Bが答えで、@に含まれる。

@日本人は自然保護の意識が薄いといわれるが、なぜなのだろうか。
A一言にしていえば、日本の自然が豊かすぎるからである。
B清い水と豊かな緑におおわれた自然の中で育った日本人には、それを保護しようなどという考えが生まれようもなかった。

パターンB Aが、@の「ハイブリッドカー」の語句説明。@が柱で、Aが詳しい説明。

@最近自然環境にやさしいハイブリッドカーが注目を集めている。
Aハイブリッドカーとは、ガソリンエンジンと電動機を組み合わせた自動車である。

パターンC @の「よい友三タイプ」を、ABCが一つずつ説明。@が柱で、Aが詳しい説明。

@徒然草の作者吉田兼好は、よい友達として三つのタイプを上げています。
A第一のタイプは、物をくれる友達です。(プレゼントはうれしいですね)
B第二のタイプは、お医者さんです。(病気の面倒を診てくれるのはありがたいですね)
C第三のタイプは、知恵のある人です。(いろいろ教えてくれる人は勉強になりますね)

パターンD @が柱で、Aが、その例の説明。

@夏目漱石は多くの小説を書いた。
A例えば、『我輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』などがある。

パターンE 《省略》

パターンF @が柱で、Aがその理由。

@大型連休には交通が渋滞する。
Aそれは、生活が豊かになり、行楽地に出かける人が増えたからだ。

パターンG すべて柱の文で、時間の論理で書かれた記録文。

@空は真っ青、天気は快晴。
A今日は新入生歓迎会の日だ。
B学校に行くとき、ちゃんと先輩とうまく競技ができるのか、こんな不安を抱きながら、歓迎会を迎えた。
C九時競技開始。
D最初の種目は玉入れ。
E見事一位。
F(よし、これならいける)と思った。
《中略》
M続く種目のダッシュ綱引きでも最後に強敵四組を倒した。
Nみんな跳びはねてよろこんだ。
Oそして最後の種目、障害物リレー。
P初めから調子はよかった。
Q一時あぶないところもあったが、それに負けず堂々の一位に輝いた。
Rそしてついに総合優勝をおさめた。

〔解説〕
   例文の文と文の論理関係を生徒と問答しながらつかませる。その関係がわかるように生徒に各パターンにネーミングさせた。Aは《QアンドAパターン》。Bは《語句説明パターン》。Cは《分類説明パターン》。Dは《例説明パターン》。Eは《事実説明パターン》。Fは《結果原因パターン》。Gは《時間の順序パターン》などとネーミングできる。多様答でよい。

「クジラたちの音の世界」の論理関係をとらえるポイント発問例

発問@ この説明文には、《QアンドAパターン》で書かれた部分がある。QとAの部分を四角く囲みなさい。
答え@
Q1〈2段落〉 A1〈3〜9段落〉
Q2〈10段落〉A2〈11〜12段落〉

発問A 発問@の答えA1の部分には、Q1の答えをわかりやすく述べるための工夫がされている。学習プリントのパターンBからGまでの中のどの論理展開が、どこに使われているか。
答えA パターンC《分類説明パターン》。5段落A文「しかも、非常に短い音と、比較的低い、長く続く音の二種類を、目的に応じて使い分けているのである。」二種類の音を使い分けているとまず述べてから、6・7段落で「短い音」、8・9段落で「長い音」について答えを述べている。
パターンE《事実説明パターン》。8段落のA文「仲間どうしのコミュニケーションに用いられる。」の事実説明が、9段落。

発問B 発問@の答えA2の部分には、《ズバリと答えを述べた文》がある。その文に線を引きなさい。
答えB 「すなわち、〜、生活を送っているのである。」
解説 学習プリントで提示した例文は、トピックセンテンスが最初にくるもの中心であるが、この発問Bで取り上げた《要約パターン》《一言まとめパターン》など、教師サイドで指摘して論理関係のパターンを増やしていくこともよい。

発問C 教科書60と61ページには、パターンGの《時間の順序パターン》段落がある。どこか。
答えC 3段落と4段落。解説「かなり以前」「長いこと」「クジラが鳴くことが知られるようになって」など、イツを示す語句に着目させるとよい。

おわりに 読み研方式勉強会MLへのお誘い

   今回、柱の文を中心にした論理関係の把握を授業のポイントとしました。私の教材分析へのご意見、ご質問などをいただけるとありがたいです。私のEメールアドレスは hideki55@fox.zero.ad.jp です。
   私は、個人的にメールを利用した「読み研方式勉強会メーリングリスト」を開設しています。参加費用無料です。いっしょに読み研方式について情報交換しませんか。私までメールをいただければ、参加方法などご案内をお送りします。また、国語教育に役立つ情報を発信するために「いのっちの国語教室」というメールマガジンも発行しています。購読無料ですので、ご希望の方は、井上までメールをいただければと思います。