010504  「みぶりでつたえる のむら まさいち」教育出版小学校1年教材の教材研究   TOPへ戻る

はじめに

2012.2.2(木)の山梨大学付属小学校の冬季学習会に参加しました。その時の国語の授業で取り上げられた教材です。わたしの感じたこの教材の問題点をまとめておきます。また、教育出版にも質問をお送りし、どのような回答をいただけたか、骨子のみ掲載したいと思っています。


具体化のむずかしさ
次の 第1段落には、具体化の難しい部分がいつくかあります。

[1]
@ こうえんの むこうで、 ともだちが 手を ふっています。    
Aわたしを よんで いるのです。    
Bわたしも 手を ふって こたえます。    
Cそして、 ともだちの ところへ かけて いきます。

(1)「わたし」とは、誰を指している?  … 筆者の「のむらまさいち」さん、それとも教科書挿絵の少年?

普通、文章の書き手が自分を指して「わたし」と使うと思うのですが、この説明文の「わたし」は、挿絵を見ると、小学生らしき男の子が犬を連れて手を振っています。そうすると、筆者の「のむらまさいち」さんとは、考えにくいのです。もし、読者自身を「わたし」ということであらわしたいのなら、「あなた」とすべきと考えます。

(2)1段落の「手をふる」身ぶりは、身ぶりだけで相手に伝えているのか、それとも身ぶりと言葉両方でつたえるいるのか、それとも、両方の可能性のある身ぶりなのか。

「わたしをよんでいるのです。」という一文を、子どもに具体的にどういう内容をあらわす文なのか考えさせるときに、私自身非常に困ります。手をふりながら「こっちへ来てよ。」などと言っているのか、手をふっているだけなのか、よくわかりません。挿絵を見ると、すべり台横の少年は口をあけているように見えます。
同様に「わたしも 手をふって こたえます。」も、手をふっているだけなのか、手をふりながら「今いくよ。」などと言っているのか、よくわかりません。

「よぶ」 を goo辞書で ひくと、次のように書かれている。

よ・ぶ【呼ぶ/▽喚ぶ】 [動バ五(四)]
1 相手に向かって声をあげて名前などを言う。「『おい』と―・ぶ」「―・んでも答えがない」
2 声をあげてこちらに来させる。「助けを―・ぶ」「食事だと母が―・んでいる」
3 客として招待する。まねく。「クラス会に先生を―・ぶ」
4 呼び寄せる。来てもらう。「タクシーを―・ぶ」「医者を―・ぶ」「国元から親を―・ぶ」
5 名づけて言う。称する。「年上の友人を兄と―・ぶ」
6 引き寄せる。集める。「人気を―・ぶ」「波乱を―・ぶ」
7 妻としてめとる。 「あなたこなたより―・べといふ者は」〈虎明狂・伊文字〉 [可能]よべる

ここでは、「ともだちが わたしを 近くに 来させようとしている」状況なので、上の/1 相手に向かって声をあげて名前などを言う。/あるいは/2 声をあげてこちらに来させる。/ あるいは /4 呼び寄せる。来てもらう。/のどちらかの意味で使われていると考えられます。1と2の意味なら「声をあげて」いることになり、4の意味なら「声をあげない」可能性もある。

「こたえる」を goo辞書で ひくと、次のように書かれている。

こた・える〔こたへる〕【応える】[動ア下一][文]こた・ふ[ハ下二]
1 働きかけに対して、それに添うような反応を示す。応じる。報いる。  「期待に―・える」「要求に―・える」「手を振って―・える」
2 外からの刺激を身に強く感じる。  「寒さが骨身に―・える」「父の死が―・えた」
3 反響する。こだまを返す。  「山びこが―・える」
4 心にしみわたる。しみじみと感じる。  「暁の嵐にたぐふ鐘の音を心の底に―・へてぞ聞く」〈千載・雑中〉
5 あいさつする。断る。告げる。  「銀(かね)は今日請け取る。ただし、仲間へ―・へうか」〈浄・冥途の飛脚〉

こた・える〔こたへる〕【答える】[動ア下一] [文]こた・ふ[ハ下二]《「応える」と同語源》
1 相手からかけられた言葉に対して返事をする。  「元気よく、はい、と―・える」
2 質問や問題に対して解答を出す。  「設問に―・えなさい」

 /応える  1 働きかけに対して、それに添うような反応を示す。応じる。報いる。/あるいは/答える  1 相手からかけられた言葉に対して返事をする。/のどちらかの意味でこの場合は使われていると考えられる。/応える  1/なら「声をあげずに」、/答える 1/なら「声をあげて」いることになるだろう。

「よぶ」にしても「こたえる」にしても、声がともなう場合と、声をともなわない場合も辞書の意味説明にはある。

次に、第2段落に進むと、第1段落と関連して具体化が難しいところが出てきます。

[2]
@このように、 わたしたちは、 ことばだけでは なく、 みぶりでも、 きもちや かんがえを あいてに つたえる ことが できます。

(3)1段落の「手をふる」身ぶりは、2段落の「このように、わたしたちは、ことばだけではなく みぶりでも、きもちや かんがえを あいてに つたえることが できます。」とありますが、1段落の「手をふる」身ぶりはどのようなきもちやかんがえをつたえているのか。
 雑に読み取ると、1段落の「手をふる」身ぶりは、「相手にこっちに来て」という友達からのメッセージと「うん、わかったよ。行くよ」というようなわたしからのメッセージをあらわしているように思われます。ところが、普通「手をふる」みぶりは、相手に自分の存在を知らせたり、相手に相手の存在を確認したというメッセージ、あるいは「さようなら」の言葉のかわりだと私は考えます。そうすると、1段落の「手をふる」という身ぶりが、何を伝えているのか、この文章の書き方では、正確に伝わりにくいように感じます。
 また、「手をふる」という身ぶりは、左右に手をふる動作だと思うのですが、手招きしている動作と思うこどももでてきそうな気もします。「手招き」の身ぶりなら、言葉を使わずに「こっちに来て」というメッセージを伝えているのでよいのですが、「そっちに行くよ」を言葉のかわりに使えるみぶりを考えるのは難しいです。「そっちに行くよ」という身ぶりは、例えば「オッケイ」のハンドサインで代用可能とは思います。
 このようなあいまいな身ぶり例でしかない「手をふる」という具体例を使わなくても、「言葉を使わなくても手をふる身ぶりで「さようなら」というあいさつになっている」というような場面設定で書き始めればよいように思います。

最後に、8・9・10段落のみぶりは、ことばといっしょに使う身ぶりなのか、言葉のかわりのみぶりなのか。

[8]
@ また、 みぶりは ことばよりも きもちを つよく あらわす ことが あります。
[9]
@ うれしい ときには、りょうてを 上げて ばんざいを します。      
Aこまった ときには、うでを くんだり、あたまに 手を あてたり します。
[10]
@ このように、うれしい、たのしい、かなしい、こまったなどの きもちは、みぶりで あらわす ほうが よく つたわる ことが あります。

(4)8・9・10段落の「ことばよりもきもちをつよくあらわすことのあるみぶり」の事例は、ことばといっしょに使う身ぶりなのか、言葉のかわりのみぶりなのか。
 この説明文のわかりにくさの原因に、みぶりの分類の観点があいまいという点があります。その最もよくわかるのが、この8・9・10段落の「ことばよりもきもちをつよくあらわすことのあるみぶり」の事例です。こどもたちは、みぶりは「言葉のかわり」「言葉といっしょに使う」という2つの場合があると読み取った後、8・9・10段落の事例に出会います。そうすると、これはどちらという疑問がわいてくると思うのですが、はっきりしません。どう考えたらよいのでしょうか。

/@ また、 みぶりは ことばよりも きもちを つよく あらわす ことが あります。/という文の内容を具体化すると、ことばだけによってきもちをあらわす場合とみぶりだけによってきもちをうらわす場合を比較して、みぶりだけによってきもちをうらわす場合のほうがきもちをつよくあらわすケースがあるということになる。とすると、ことばでどのようにきもちをあらわしているのかという具体例が8・9・10段落には記述されていないので、/@ また、 みぶりは ことばよりも きもちを つよく あらわす ことが あります。/という文が妥当かどうか判断できない点も、問題である。


教育出版の編集委員からの回答 の 骨子

教育出版の編集委員の方から、3月9日わざわざお電話で回答をお伝えいただきました。こまかな回答はご紹介できませんが、骨子のみ紹介いたします。

(1)1段落の「わたし」とは、小学校一年生になったのむらまさいちさんである。
(2)1段落の「手をふるみぶり」は、日常生活でもよくつかわれているみぶりの事例であり、「ことばといっしょに使うみぶり」あるいは「ことばはつかわないみぶり」のどちらであるかは、限定していない。
(3)8・9・10段落の「ことばよりもきもちをつよくあらわすことのあるみぶり」の事例は、シチュエーションがあいまいなので「ことばといっしょに使うみぶり」あるいは「ことばはつかわないみぶり」のどちらであるかは特定できない。

編集委員の方とお話しする中で、小学校一年生に適した「みぶりを題材にした説明文」にするためのご苦労が背後にあることが分かる一方、教材づくりのむずかしさを私自身も感じました。私の意見についても何らかの参考にしてよりよい教科書にしていっていただければと思います。

この教材をバージョンアップするための私のアイディア

イラストのさしかえ
 1段落の「わたし」が「のむらまさいち」さんであるので、「犬をつれた男の子」を、例えば「スーツを着た大人の人 犬ではなく子どもを連れている状況」のイラストにする。公園のすべり台横の「手をふっている男の子」を、「手をふっている大人の男の人」にする。そして、まわりには、他にも何人か人物を描く。例えば、「手をふっていない男の人」や「ベンチで座っておしゃべりをしている家族」などの状況にする。
 こうすることによって、「わたし」が「のむらまさいち」さんであることが無理なくわかる。イラストの人物が口をあけていれば、ことばも出していることになるし、もし口を閉じていれば手をふっているだけという状況に設定できる。

1段落の末尾に次のような一文を追加する。
 /手を友達がふってくれるので、遠くにいる私もすぐきづくことができます。/
 この一文を追加することによって、この手をふる身ぶりは「相手に自分の存在をアピールする役割」「相手にここにいるよということを伝えるはたらき」をしているということがはっきりするでしょう。

(この部分  2012.03.10 土  公開)


みぶりで つたえる   のむら まさいち

[1]
@ こうえんの むこうで、 ともだちが 手を ふっています。    
Aわたしを よんで いるのです。    
Bわたしも 手を ふって こたえます。    
Cそして、 ともだちの ところへ かけて いきます。
[2]
@このように、 わたしたちは、 ことばだけでは なく、 みぶりでも、 きもちや かんがえを あいてに つたえる ことが できます。
[3]
@くびを たてに ふると 「はい」、 よこに ふると 「いいえ」、 よこに かたむけると 「よく わからない」と いう いみに なります。
[4] 
@くちびるに 人さしゆびを あてると 「しずかに しよう」と いう いみに なります。
[5] 
@このような とき、 みぶりは ことばの かわりを して います。
[6]
@ ともだちに、「こんな 大きな さつまいもを ほったよ。」と はなす とき、さつまいもの  ながさや ふとさを りょうてで あらわせば、 その 大きさが よく つたわります。
Aあたまを 下げながら、「ありがとう ございます。」と いうと、 おれいの きもちが よく つたわります。
[7] 
@このように、 みぶりと ことばを いっしょに つかうと、 じぶんの つたえたい ことが、 あいてに はっきりと つたわるのです。
[8]
@ また、 みぶりは ことばよりも きもちを つよく あらわす ことが あります。
[9]
@ うれしい ときには、りょうてを 上げて ばんざいを します。      
Aこまった ときには、うでを くんだり、あたまに 手を あてたり します。
[10]
@ このように、うれしい、たのしい、かなしい、こまったなどの きもちは、みぶりで あらわす ほうが よく つたわる ことが あります。
[11]
@ わたしたちは、じぶんの きもちや かんがえを まわりの 人と つたえあって くらして います。
Aことばだけで なく、みぶりを じょうずに つかうと、 つたえたい きもちや かんがえを はっきりと あらわせるように なるのです。

凡例  思考ユニットの表し方  

思考ユニットの記号については  010401  思考ユニット外字一覧 参照

大きな文塊 を □囲み

構文素文にあたる文塊は グレーの背景色
まとめてきな要素にあたる文塊は ピンクの背景色
その他の小さな文塊 を その他の色の背景色


思考ユニットによる教材分析

前文

[1]
@ こうえんの むこうで、 ともだちが 手を ふっています。  
       ↑ ナゼナラ
Aわたしを よんで いるのです。

   [認知→反射](順接)

Bわたしも 手を ふって こたえます。    
     […→]継起展開
Cそして、 ともだちの ところへ かけて いきます。

   [  [1]段落全体が、「このように」への  くりこみ展開  ]

[2] @このように、 わたしたちは、 ことばだけでは なく、 みぶりでも、 きもちや かんがえを あいてに つたえる ことが できます。   

本文T  ことばをつかわないでつかう場合のみぶり

[3] @くびを たてに ふると 「はい」、 よこに ふると 「いいえ」、 よこに かたむけると 「よく わからない」と いう いみに なります。
     [+ 並び]
[4] @くちびるに 人さしゆびを あてると 「しずかに しよう」と いう いみに なります。

   [  [3]と[4]段落が、「このようなとき」への  くりこみ展開]

[5]  @このような とき、 みぶりは ことばの かわりを して います。

本文U   ことばといっしょに使う場合のみぶり

[6]
@ ともだちに、「こんな 大きな さつまいもを ほったよ。」と はなす とき、さつまいもの  ながさや ふとさを りょうてで あらわせば、 その 大きさが よく つたわります。
    [+ 並び] …文型の整っていない並び
Aあたまを 下げながら、「ありがとう ございます。」と いうと、 おれいの きもちが よく つたわります。

   [  [6]段落が、「このように」への  くりこみ展開]

[7]  @このように、 みぶりと ことばを いっしょに つかうと、 じぶんの つたえたい ことが、 あいてに はっきりと つたわるのです。

本文V  井上コメント… ことばをつかわない場合のみぶり なのか ことばといっしょに使うみぶり なのか よくわからないみぶり

[8]  @ また、 みぶりは ことばよりも きもちを つよく あらわす ことが あります。
       ‖

[9]
@ うれしい ときには、りょうてを 上げて ばんざいを します。      
    [+ 並び]
Aこまった ときには、うでを くんだり、あたまに 手を あてたり します。

   [  [9]段落が、「このように」への  くりこみ展開]

[10] @ このように、うれしい、たのしい、かなしい、こまったなどの きもちは、みぶりで あらわす ほうが よく つたわる ことが あります。

後文

[11]
@ わたしたちは、じぶんの きもちや かんがえを まわりの 人と つたえあって くらして います。
Aことばだけで なく、みぶりを じょうずに つかうと、 つたえたい きもちや かんがえを はっきりと あらわせるように なるのです。

(2012.03.07 公開)