010108   読み研大会資料からの学び           TOPへ戻る
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岩崎成寿氏(立命館宇治中学校・高等学校)
模擬授業3 国語スキルを身につけさせるための授業展開 説明的文章「千年の釘にいどむ」  からの学び
  ……科学的「読み」の授業研究会 第19回 夏の大会『資料・教材集』P75〜78……

はじめに

 2005年8月22日(月)〜23日(火)科学的「読み」の授業研究会第19回夏の大会が開催された。井上は参加できなかったが、資料を送っていただいた。その中の岩崎成寿氏の『説明的文章「千年の釘にいどむ」』を取り上げて、気づいたことをまとめてみた。そして、私の開設した「読み研方式勉強会メーリングリスト」へもこの内容を送り、メンバへからのご意見もあわせて掲載する中で、説明的文章のよみについて考えていきたい。
 なお、このページの内容についても岩崎成寿氏にコメントをいただき、ここに掲載させていけたらありがたいと思っている。
 このページをお読みのみなさんにも、ご意見をいただければ、あわせてここに掲載させていただければありがたい。ぜひ、多くの方からの投稿をお願いしたい。(岩崎成寿氏への質問という形式で、書いてみる)

 このページは、/教材研究  千年の釘にいどむ  内藤誠吾/というページにリンクしていますので、あわせてお読みいただきたい。


岩崎成寿様

 何年か前の読み研の夏の大会のレジュメをお送りいただいたことのある山梨の井上秀喜です。お久しぶりです。
 2005年の第19回夏の大会のレジュメに、岩崎先生のお書きになった/説明的文章「千年の釘にいどむ」/の原稿が掲載されています。この説明的文章「千年の釘にいどむ」は読んでみて、題材的に魅力をもつ教材だと私も感じました。この教材について教材分析を深めるために、先生の原稿を素材に私の開設した「読み研方式勉強会メーリングリスト」で意見交換したり、私のホームページにその内容を掲載したりしようと考えています。岩崎先生にもこれらの内容についてコメントをいただければ大変ありがたく思います。
 早速ですが、何点か質問とお願いがありますので、メールを送らせていただきました。私のホームページにその内容をアップしてありますので、お読みいただきご意見をいただければと思います。
 なお最初にお願いなのですが、先生からいただいたコメントを私のホームページに掲載させていただき、そのコメントに対しての私のコメントを付け加えていくという形でお願いできればと思います。(いただいたメールを、私が編集してホームページに掲載する予定です)


質問1 文種は説明文なのでしょうか。私は、記録文だと思うのですが…。

1 教材の紹介

題名  「千年の釘にいどむ」
著者  内藤誠吾
出典  光村図書・小学校5年上

 文種は説明文である。薬師寺再建にあたり、日本の古代建築に使われていた釘の「見事さ」(特徴)を、かじ職人の白鷹氏の視点から筆者が説き明かす展開になっている。
 また、後述するように、この文章は構造が明快かつ典型的であり、要旨の把握は比較的容易にできるであろう。
4 教材分析

(2)構造読み

前文 [1]〜[5] 白鷹さんは、古代の釘と現代の釘がどうちがうのかを調べ、古代の釘の見事さにおどろいた。(では、古代の釘はどう見事なのか。) 問い
本文 本文1 [6]〜[7] (見事さ1―材料の性質)鉄の純度が高くさびにくい。
本文2 [8] (見事さ2―形)頭の近くが細く表面がでこぼこし、確実に木をつなぐ。
本文3 [9]〜[10] (見事さ3―かたさ)節をよけて曲がり、木を長持ちさせる。
後文 [11]〜[12] 白鷹さんの職人としての仕事ぶり 付け足し・感想

 この文章は各部が一行空きに区切られているため、構造は明快である。「問い」がはっきりとした疑問文で書かれていないが、「古代の釘の見事さ」を明らかにしようとしている筆者の姿勢は容易に読みとれる。また、後文は、「古代の釘の見事さ」という話題から離れ、白鷹さんの職人としての心意気を紹介しているので「付け足し・感想」と読みとった。

井上の記録文だと考える根拠

「千年の釘にいどむ」の教材研究のページには、教材文全文と、記録文の部分に水色でラインマーカーで印をつけてあります。

その記録文要素をもっていると認めた部分を以下抜き出してみます。

再建計画にまつわる記録文

薬師寺では、一九七〇年、大がかりな再建計画がスタートした。

一流の職人たちが日本じゅうから総動員された。建物をつくる宮大工。かわらを作るかわら職人。そして釘を作るかじ職人にいたるまで。

(記録文ではないがこの再建計画の時間軸に関係ある説明文)
この、釘作りを任されたのが、四国のかじ職人、白鷹幸伯さんだ。

○この「再建計画にまつわる記録文」の部分は、「白鷹さんが千年の釘づくりにチャレンジすることになったいきさつ」の説明にあたります。

白鷹さんの釘づくりにまつわる記録文

A 白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。

a1 白鷹さんは、現代の方法で作られた鉄を使っては、求めている釘を作ることはできないと思った。製鉄会社に相談して、特別に純度の高い鉄を用意してもらうことにした。

a2 白鷹さんは次に、古代の釘の形に注目した。

a3 白鷹さんは調べてみて、驚くべきことを発見した。

a4 白鷹さんは形だけでなく、釘のかたさにもひみつがあることを発見した。

a5 白鷹さんは炭素を混ぜる分量を少しずつ変えて、実験してみた。最初の釘はかたすぎて、打ちこむと節をつきぬけてしまった。節がわれて、その周りの木のせんいまでいためている。これでは、木材自体が長くはもたない。次の釘は、少し炭素を減らして作ってみた。打ちこむと釘はまっすぐささっていく。とちゅうで節にぶつかった。すると、この釘はおどろいたことに、節をわらないように、ぐるりとその節をよけて曲がった。

B1 白鷹さんは、なっとくのいく釘を完成させるまで、何本も何本も作り直した。薬師寺の工事が始まって、釘を宮大工の人たちにわたすようになってからも、改良を続けた。そうして、これまで二万四千本もの釘を作ってきた。それでも、白鷹さんは、もっといい釘を作ろうとしている。

B2 「千年先のことは、わしにも分からんよ。だけど、自分の作ったこの釘が残っていてほしいなあ。千年先に、もしかじ職人がいて、この釘を見たときに、おお、こいつもやりよるわいと思ってくれたらうれしいね。逆に、ああ千年前のやつは下手くそだと思われるのははずかしい。笑われるのはもっといやだ。これは職人というものの意地だね。」

B3 白鷹さんは笑った。

この「白鷹さんの釘づくりにまつわる記録文」の部分が、この「千年の釘」という説明的文章の中心にあたる部分だと思います。

この部分は、大きく二つの時間軸で構成されています。

まず、A「千年の釘づくりを始める前に行ったこと」…「古代の釘と現代の釘の違い調査とその調査の中でわかったこと」…「まず」という言葉が、続きのあることを示しています。

A 白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。

次に、B「古代の釘と現代の釘の違い調査からわかったことをもとに、千年の釘づくりに本格的にとりかかった経過報告」

B1 白鷹さんは、なっとくのいく釘を完成させるまで、何本も何本も作り直した。薬師寺の工事が始まって、釘を宮大工の人たちにわたすようになってからも、改良を続けた。そうして、これまで二万四千本もの釘を作ってきた。それでも、白鷹さんは、もっといい釘を作ろうとしている。

B1は「まとめ記録」で、「白鷹さんの釘作りをどのように行ったか」記録してある部分です。

B2 「千年先のことは、わしにも分からんよ。だけど、自分の作ったこの釘が残っていてほしいなあ。千年先に、もしかじ職人がいて、この釘を見たときに、おお、こいつもやりよるわいと思ってくれたらうれしいね。逆に、ああ千年前のやつは下手くそだと思われるのははずかしい。笑われるのはもっといやだ。これは職人というものの意地だね。」
B3 白鷹さんは笑った。

B2B3は、たぶん内藤誠吾が白鷹さんに取材するなかで、白鷹さんが釘作りかける思いを語ったせりふを記録したものでしょう。

では「白鷹さんの釘づくりにまつわる記録文」のなかで、Aの部分とBの部分どちらに重点があるかというと、Aの部分です。というのは、Aの部分はさらにa1〜a5までの詳しい記録文が付け加わっています。

a1〜a5までの詳しい記録文の内部構造も、時間的な順序で並べてあります。

[6][7]段落…a1…古代の釘の材質調査について
[8]段落…a2・a3・a4…古代の釘と木材との関係調査について
[9][10]段落…a5…釘のかたさのひみつ調査ついて

ここでとりあげた文が、記録文なのではないかという根拠になります。つまり、「千年の釘にいどむ」という説明的文章の文種は、基本的には「記録文が骨子になっているのですが、記録文を補う説明文の要素が非常に濃い説明的文章だと、私は思います。


 さて、ここでこの説明的文章の論理の流れの把握で問題となる点を改めて指摘します。以下の「まず」ということばに、直接つながるのは、どこかという点です。先ほど、Aの部分とBの部分があると述べたのですが、この「まず」の次につながるのが、Bの部分とみるような見方ができれば、いいのですが、そういう書かれ方をしていません。

A 白鷹さんはまず古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。

a1に関わる[6][7]段落

a2 白鷹さんは次に古代の釘の形に注目した。

a3 白鷹さんは調べてみて、驚くべきことを発見した。

a4 白鷹さんは形だけでなく、釘のかたさにもひみつがあることを発見した。

B1 白鷹さんは、なっとくのいく釘を完成させるまで、何本も何本も作り直した。薬師寺の工事が始まって、釘を宮大工の人たちにわたすようになってからも、改良を続けた。そうして、これまで二万四千本もの釘を作ってきた。それでも、白鷹さんは、もっといい釘を作ろうとしている。
(B2B3省略)

 Aの「まず」に直接的につながるのが、a2の「白鷹さんは次に古代の釘の形に注目した。」です。そうすると、Aの「古代の釘と現代の釘が、どうちがうのか」に直接関係するのが、a1の[6][7]段落となります。「古代の釘と現代の釘が、どうちがうのか」というのは、/「千年もつ釘の材質について」古代の釘と現代の釘がどうちがうのか/ということに限定していることにもなります。
 本文1には、本文1の話題を示す文(予告文)がないのですが、Aの/白鷹さんはまず古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/の部分がその代用をしていると見ることができます。
 本文2の話題を示す文は、a2の/白鷹さんは次に古代の釘の形に注目した。/と、a3の/白鷹さんは調べてみて、驚くべきことを発見した。/です。
 本文3の話題を示す文は、a4の/白鷹さんは形だけでなく、釘のかたさにもひみつがあることを発見した。/
です。
 本文2・本文3に話題を示す文があるのに対して、本文1にないのは、前文に/白鷹さんはまず古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/という話題提示文が、あるからでしょう。
 もし、/Aの「まず」に直接的につながるのが、a2の「白鷹さんは次に古代の釘の形に注目した。」/だとすると、前文という扱いはむずかしくなります。前文なしということになります。
 
 [1]〜[5]が前文だとみなす立場の理由は、/白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/という話題提示は、本文1のみの話題提示ではなく、本文1〜本文3までを包括する大きな話題提示であるとみるからです。

 では、なぜ/白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/という話題提示が、本文1だけの話題提示文であると見えたり、本文1〜本文3までを包括する大きな話題提示文であると見えたりするのかというと、やはり、この文章が「記録文」要素を骨格にもっているからだと思います。

 私は、上に述べたように/白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのか
を調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/という話題提示文は、本文1の話題提示文であるとともに、本文1〜本文3までを包括する大きな話題提示文でもあるという二つの側面をもった話題提示文だと考えます。

 ここは、この説明的文章が、記録文という性格をもっていることの直接的ではない二つ目の根拠にもなります。


質問2 前文のめやすである「〈問い〉の提示」の〈問い〉とは「はっきりとした疑問文」のことを意味しているのでしょうか。「問題提示」あるいは「話題提示」という規定をつかわないのは、疑問文である形のはっきりしたものを「〈問い〉の提示」として前文のめやすとして示したいからでしょうか。

(2)構造読み

 白鷹さんは、古代の釘と現代の釘がどうちがうのかを調べ、古代の釘の見事さにおどろいた。(では、古代の釘はどう見事なのか。) 問い

  この文章は各部が一行空きに区切られているため、構造は明快である。「問い」がはっきりとした疑問文で書かれていないが、「古代の釘の見事さ」を明らかにしようとしている筆者の姿勢は容易に読みとれる。また、後文は、「古代の釘の見事さ」という話題から離れ、白鷹さんの職人としての心意気を紹介しているので「付け足し・感想」と読みとった。
3 教科内容(国語スキル)

(1)構造を読むスキル

@次のめやすで前文・本文・後文をあきらかにする。

a 前文には「〈問い〉の提示」「導入」のいずれかの役割がある。
b 本文には「〈答え〉の提示」と「解説」の役割がある。
c 後文には「〈答え〉の再確認・まとめ」「発展的な〈答え〉」「付け足し・感想」のいずれかの役割がある。

 なお、〈問い〉が省略されている文章の場合は、前文がない(題名に〈問い〉の役割を負わせていることもある)か、導入の役割だけの前文かのいずれかとする。

 岩崎先生の構造読みの教材分析には「「問い」がはっきりとした疑問文で書かれていないが」と書いてあるところを見ると、「〈問い〉の提示」の〈問い〉とは「はっきりとした疑問文」のことを意味しているわけではないようですが、「(では、古代の釘はどう見事なのか。) 問い」と補った形で、書いてあるところを見ると、基本的には疑問文の形のものを「〈問い〉の提示」と規定しているように思えます。
 たぶんに「〈問い〉の提示」という言葉を使うと、疑問文という形式をもっているように感じられます。
 それに対して、「問題提示」あるいは「話題提示」という規定の場合は、疑問文でなくても、本文で述べる予定の話題を提示してあればよいわけで、こちらの用語の方が広い意味をもっていて、使いやすいようにも感じるのですが、いかがなものなのでしょうか。


質問3 「この文章は構造が明快かつ典型的であり、要旨の把握は比較的容易にできるであろう。」と教材分析していますが、「構造が明快かつ典型的」なのでしょうか。私は、柱の文に着目して構造をよみとるのは非常に難しい教材だと思います。「構造が明快かつ典型的」だと感じられるのは、教材文自体が、行あけによって分けてあるからではないでしょうか。

柱の文に着目して構造をよみとるのが難しいというわけは次のとおりです。

確かに「問題提示」が前文で、その問題提示に答えている部分が本文だとすると、[5]段落の/白鷹さんはまず古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。/が、問題提示で、それに詳しく説明しながら答えている本文が、[6]〜[10]段落までであることを読みとることは簡単なように私も思います。また、本文1・本文2・本文3も話題によって本文を分けるのも、行空きがなくてもわかりやすいと私も思います。ただ、柱の文に着目して構造をよみとろうすると、そうは簡単にはいきません。

柱の文が、しっかりした説明的文章ではないからです。

試しに、柱の文はどれなのか指摘しようとすると、困難になりませんか。


この説明的文章の構造はどうなっているのか  [井上案]

記録文としてみていくと次のような構造だと読みとれます。

題名「千年の釘にいどむ」に着目すると、つまり/白鷹さんが薬師寺再建にあたり釘作りを依頼され、どのように取り組んできたか/という記録文だとみると、岩崎先生が後文だと位置づける[11][12]段落も、本文の一部だといえます。

はじめ [1]〜[4] 一九七〇年、薬師寺再建計画がスタートし、一流の職人たちが総動員された。
なか1 [5]〜[10] その釘作りを白鷹幸伯さんが任せられた。白鷹さんは、古代の釘と現代の釘の違いを調査した。そのなかで、三つの発見があった。
なか1(その1) [5]〜[7] 千年もつ古代の釘の成分についてわかったことと、千年たってもさびて腐らない釘作りのためにどのように鉄を用意したかということ
なか1(その2) [8] 古代の釘の形の意味についてわかったこと
なか1(その3) [9]〜[10] 古代の釘のかたさの秘密についてわかったこと
[5]段落を、柱の文として扱い、[5]/[6][7]/[8]/[9][10]と なか1 の内部構造を読みとった方がいいのかも知れませんが、一応上のようにしておきます。
なか2 [11][12] (その調査を生かして)釘作りを行ったが、簡単にはいかないが、改良を重ねて、二万四千本もの釘を作り上げた。

お願い レジュメでは触れていない、「吟味よみに関わる問題点」についての教材分析などを、私のホームページで公開させていただくことはできないでしょうか。読み研の大会当日配布した資料などを添付ファイルで、お送りいただければ、私の方で編集いたします。岩崎先生の教材分析を多くの方に活用していただけると思います。


人目のご訪問ありがとうございます。 カウンタ設置 2005.8.28